『死ぬまでに観たい映画1001本』の各作品の概要を少しずつ作っています。1980年代リスト(後半)

『死ぬまでに観たい映画1001本』1990年代リスト(前編)

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この記事では、『死ぬまでに観たい映画1001本』全リスト作品の概要を簡単に説明しています。

全部は紹介しきれないので年代別に分けています。

ここでは、1990年代前半の、1990年から1994年までの作品を紹介します。

かんとくさん

今日も映画を見るぞ

あおい

いいですねえ

各映画の概要は簡潔に紹介しています。考察はほとんど書いていません。考察よりも、まずは感覚を楽しんでいただき、次にあなたの心を動かしてもらいたいのです。

人生の岐路において、役立つ映画がここでもわんさかと掲載されています。

興味がある作品はどんどん鑑賞していきましょう。そして次の興味をひきだして、映画ライフを充実させていきましょう。

かんとくさん

何の映画を見ようかな?

記事を順番に見ていくと長くなるので、こちらの一覧リストから見ていただくのがいいですよ。

あおい

このリストの作品名から記事に飛べます

全部で78作品です。ではどうぞ。

目次

1990年

1990年を象徴するイメージ画像です。

トラスト・ミー

画像引用元:映画.com

(NO.0845)

監督:ハル・ハートリー

107分/アメリカ・イギリス合作
原題または英題:Trust

配給:ポッシブルフィルムズ

妊娠によって家を追い出された17歳の女子高校生マリアと、仕事でうまくいかない電子機器修理工のマシューという、二人の若者の出会いを描いています。

どちらも家族や社会から理解されず、居場所を失っていた二人でしたが、偶然出会ったことで互いを支え合うようになります。恋愛関係というよりも、お互いを尊敬し信頼する深いつながりを築いていく姿が印象的です。

この映画の見どころは、完璧ではない人同士が真剣に向き合うことの難しさと美しさを描いている点です。

社会にうまく馴染めない若者たちの心の交流を通して、「人を信じる」ことの意味は?ここは考えどころでしょう。

不完全なままでも他人とつながる勇気は、大いに学ぶことがあります。すべてが整わなくても、誰かを信じる一歩を踏み出すことで、人は孤独から救われるということを教えてくれますね。

女子高生の妊娠が煙たがられるのは日本もアメリカも変わらないようです。ただ個人的には、現代の日本でこういう考えが当たり前という風潮に疑問を感じるのですが。

死んだってへっちゃらさ

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0846)

監督:クレール・ドニ

90分/フランス・ドイツ
原題または英題:S’en fout la mort/No Fear, No Die
配給:日本公開情報なし

物語の中心となるのは、アフリカのベナンから来たダーと、カリブ海地域出身のジョスリンという二人の移民です。彼らはフランスで生活するため、レストランの地下室で違法な闘鶏を組織して収入を得ようとします。

しかし、思うようにお金は稼げず、二人は厳しい現実に直面します。特にジョスリンは、自分が大切に育てた闘鶏「死んだってへっちゃらさ」という名前の鶏に強い愛情を抱いており、鶏が負けると深く落ち込んでしまいます。

移民の孤立感や差別を冷静な視点で描いた演出は高く評価されています。

この映画の見どころは、闘鶏という暴力的な世界を通して、社会の底辺で生きる人々の苦しみを描いている点です。華やかさのない現実的な場面設定で、観客に移民が置かれた厳しい状況を感じさせます。

人が生きるために選ぶ道が必ずしも正しいとは限らないが、その背景には切実な事情があるということも、こういう映画から感じ取れます。社会から取り残された人々の現実を知ることで、簡単に善悪を判断できない複雑な世界があることを理解できるでしょう。

ただし、動物は大切にしましょう。

グッドフェローズ

画像引用元:映画.com

(NO.0847)

監督:マーティン・スコセッシ

145分/アメリカ
原題または英題:Goodfellas
配給:ワーナー・ブラザース映画

実在したマフィア、ヘンリー・ヒルの人生を基にして、1950年代から80年代のアメリカ裏社会を描いています。主人公のヘンリー・ヒルは、子供の頃からマフィアに憧れていました。大人になってマフィアの一員となり、仲間のジミーやトミーと一緒に犯罪を重ねていきます。最初は華やかで刺激的な生活を楽しんでいましたが、やがて薬物に手を出したことから人生が狂い始め、最終的にFBIの証人となって仲間を裏切ることになります。

この映画は世界中で非常に高く評価されており、「スコセッシ監督のキャリアの最高点」と評価されています。また、ジョー・ペシはアカデミー賞助演男優賞を受賞し、映画自体も作品賞にノミネートされました。

この映画の最大の魅力は、マフィアの生活をとてもリアルに描いていることです。主人公がナイトクラブに入る時の長回しシーンで、まるで自分もその場にいるような感覚になります。また、暴力シーンとユーモアが巧妙に混ざり合っていて、観る人を飽きさせません。

ヘンリーは最初、マフィアの生活に憧れてお金と権力を手に入れますが、最終的には友人を失い、家族とも離ればなれになってしまいます。犯罪に手を染めることの恐ろしさと、本当の幸せとは何かを考えさせられる作品です。

『グッドフェローズ』は単なるエンターテインメントを超えて、人生の選択について深く考えさせてくれる映画で、わたしもこの映画がギャング映画での最高傑作と考えています。

クローズ・アップ

画像引用元:映画.com

(NO.0848)

監督:アッバス・キアロスタミ

98分/イラン
原題または英題:Close-Up
配給:ユーロスペース

実際に起きた不思議な事件を映画にしたものです。サブジアンという映画好きの男性が、有名な映画監督マフマルバフのふりをして、ある家族に近づいた事件が題材です。彼は貧しくて仕事もなく、離婚もしていました。映画が大好きだった彼は、バスで出会った女性に「自分は有名な監督だ」と嘘をつき、その家族の家に何度も遊びに行きました。「君たちを映画に出してあげる」と言って、家族をだましたのです。

やがて家族は彼が偽物だと気づき、警察に通報しました。裁判になりましたが、キアロスタミ監督はその裁判を撮影する許可をもらい、さらに本人たちに過去の出来事を演じてもらって映画を作りました。つまり、サブジアン本人が自分の役を演じ、だまされた家族も自分たちの役を演じているのです。これが本物の記録なのか、演技なのか、見ている人には分からなくなるような不思議な作り方です。

映画の最後では、本物のマフマルバフ監督がサブジアンに会いに来て、一緒にバイクに乗って家族の家に謝りに行く場面はとても感動的に映ります。

人は誰でも「認められたい」「大切にされたい」という気持ちを持っているということではないでしょうか。

サブジアンは嘘をついたけれど、その理由は映画への愛と、誰かに注目してもらいたいという寂しさからでした。嘘は良くないけど理解もできます。人間の弱さと優しさの両方を見せてくれる気持ちにさせるでしょう。

キング・オブ・ニューヨーク

画像引用元:映画.com

(NO.0849)

監督:アベル・フェラーラ

104分/アメリカ
原題または英題:King of New York
配給:コピアポア・フィルム

刑務所から出たばかりの麻薬王フランク・ホワイトが、再びニューヨークの裏社会のボスになろうとする話です。

フランクは普通の悪人とは違います。彼は犯罪で稼いだお金を、貧しい人のための病院を作るために使おうとします。善悪の見境をくるわせるような人物です。映画の中では、ほとんどすべてのシーンが暴力で終わり、最後にはほぼ全員が死んでしまうという激しい内容です。

ウォーケンの不気味で魅力的な演技は海外で話題にも。特にラッパーの間で人気になり、有名なラッパーのノトーリアス・B.I.G.は自分を「フランク・ホワイト」と呼ぶこともありました。

見どころは、ウォーケンの冷たい笑顔と突然の暴力です。彼は踊るような優雅さで危険な世界を歩き回ります。また、ニューヨークの暗い街並みの映像も印象的です。

善と悪の境目は簡単には決められないことを考えさせられます。

フランクは悪人ですが、同時に貧しい人を助けようともしています。単純に白黒つけられないことは現実の社会でも多く、自分の脳に委ねられることもまた、教えてくれる内容です。

現代のSNS界隈に溢れる時代には、必要な映画の一つです。

プリティ・ウーマン

画像引用元:映画.com

(NO.0850)

監督:ゲイリー・マーシャル

119分/アメリカ
原題または英題:Pretty Woman

配給:ワーナーブラザーズ

富豪の実業家エドワードが、ロサンゼルスで偶然出会った娼婦ヴィヴィアンを1週間3000ドルでエスコート役として雇うことから物語が始まります。最初はビジネスの関係でしたが、二人は身分や境遇の違いを超えて本当の愛に落ちていきます。

世界中から絶大な支持を受け、世界で4億3200万ドルという驚異的な興行収入を記録。ジュリア・ロバーツの輝くような笑顔と自然な演技が高く評価され、彼女を一躍トップスターに押し上げました。

見どころは、王道のロマンティック・コメディとしての完成度の高さです。ロデオドライブでの買い物シーンや、オペラ『椿姫』を観劇する場面など、豪華で夢のような瞬間が散りばめられています。また、ヴィヴィアンが自分の価値を認識し、成長していく姿も印象的です。

人は過去や肩書きではなく、今の姿勢と心で評価する。何年たってもこのテーマは変わらないものです。

現実離れした夢物語のようですが、人間関係の本質を描いた作品で、実際に一度は夢見るようなお話をここまで映像化として落とし込んだ映画は、この後もなかなか出てきません。

ダンス・ウィズ・ウルブス

画像引用元:映画.com

(NO.0851)

監督:ケビン・コスナー

181分/アメリカ
原題または英題:Dances with Wolves
配給:東宝東和

南北戦争で英雄となったジョン・ダンバー中尉が、西部の辺境の砦に赴任し、そこで先住民のスー族と出会い、交流を深めていく物語です。やがて彼は「狼と踊る男」という名前をもらい、部族の一員として受け入れられます。

第63回アカデミー賞で作品賞・監督賞など7部門を受賞しました。サウスダコタの広大な草原の美しい映像と、先住民の言葉(ラコタ語)を字幕付きで使った本格的な描写は印象的です。

見どころは、広大な自然の映像美と、ダンバーが先住民との交流を通じて変わっていく姿です。特にバッファローの群れの狩りのシーンは迫力満点です。

異なる文化の人々が言葉の壁を越えて理解し合おうとする姿も感動するでしょう。

偏見を捨てて相手を理解しようとすれば、文化の違いを超えて心が通じ合えるという映画。たくさんこういう作品ありますが、この映画も大いに考えさせることがあります。自然と共に生きることの美しさも感じ取れます。歴史の悲劇を描きながらも、人間同士の友情と理解の物語として今も愛されている作品です。

ヘンリー/ある連続殺人鬼の記録

画像引用元:映画.com

(NO.0852)

監督:ジョン・マクノートン

1986年製作/86分/アメリカ
原題または英題:Henry: Portrait of a Serial Killer
配給:ケイブルホーグ

1986年制作だが、お蔵入りとなっており1990年に公開されたといういわくつきの作品のため、制作年が1986年となっています。

実在の殺人犯ヘンリー・リー・ルーカスをモデルに、シカゴで淡々と人を殺し続ける男ヘンリーと、その相棒オーティス、オーティスの妹ベッキーの関係を描いています。ドラマチックな展開はなく、まるで日常生活の一部のように殺人が行われる恐ろしさを映し出します。

「低予算ながら冷徹なリアリズムを実現した」「暴力を美化せず、むしろ不快感を突きつける誠実な態度」と批評家たちは評価しました。しかし過激な内容のため、アメリカの映画審査機関はR指定(17歳以下は保護者同伴)すら与えず、公開が大きく制限されました。

見どころは、マイケル・ルーカーの怖いほどリアルな演技です。彼は撮影中ずっとヘンリーになりきり、他の俳優とも交流しませんでした。無表情で感情のない佇まいが、平凡な外見の殺人鬼の異常さを際立たせています。

悪は特別な怪物の中にだけあるのではなく、普通の人間の中にも潜んでいるということを考えるだけでも、この映画を見る価値があります。

日常の延長線上にある暴力の恐ろしさを見せることで、人間の暗い面について考えさせられます。

アークエンジェル

画像引用元:映画.com

(NO.0853)

監督:ガイ・マディン

78分/カナダ
原題または英題:Archangel
配給:リスキット

第一次世界大戦が終わった1919年、ロシア北部の寒い町アルハンゲリスクが舞台となっています。

主人公は片足の義足をつけたカナダ軍兵士ジョン・ボールズです。彼は愛する人アイリスを失った悲しみを抱えながら、ロシアの町にやってきます。そこで地元の女性ヴェロンカと出会い、彼女が死んだはずの恋人アイリスだと思い込んでしまいます。しかし、ヴェロンカには記憶喪失の夫がいて、複雑な三角関係が生まれます。

この映画の最大の特徴は、まるで昔の無声映画のような作りになっていることです。白黒映像で撮影され、大げさな演技や字幕を使って、1920年代の映画を真似て作られています。しかし、単なる真似ではなく、現代的なユーモアや不思議な雰囲気が混ざった独特な世界観を作り出しています。

人間の記憶がいかに曖昧で不確かなものか?考えてしまいますね。

戦争で傷ついた人たちが、現実と夢の境界を見失いながらも、愛と希望を求め続ける姿が描かれています。また、過去の出来事は時として美化されたり、歪められたりすることも教えてくれます。

一般的な戦争映画とは全く違う、芸術的で実験的な作品です。普通の映画に飽きた人や、映画の新しい表現方法に興味がある人におすすめの一作です。

トータル・リコール

画像引用元:映画.com

(NO.0854)

監督:ポール・バーホーベン

113分/R15+/アメリカ
原題または英題:Total Recall
配給:REGENTS

フィリップ・K・ディックという作家の短編小説を基にしています。主人公のダグラス・クエイドは普通の建設作業員ですが、火星旅行の記憶を人工的に植え付けるサービスを受けようとします。ところが、その処理中に何かがおかしくなり、自分の記憶が偽物だったことがわかります。実は彼は秘密エージェントで、記憶を消されて別人として生活していたのです。その後、地球と火星を舞台にした大きな陰謀に巻き込まれていきます。

バーホーベン監督の激しい演出のもと、暴力とユーモアが絶え間なく続く、テンポの速いスリル満点の作品という言葉がぴったりです。特殊効果の素晴らしさも認められ、アカデミー賞の特別業績賞を受賞しました。

この映画の見どころは、現実と夢の区別がつかなくなるストーリーです。観ている人も「今見ているのは本当のことなのか、それとも夢なのか」と混乱してしまいます。また、火星の未来都市や三つの胸を持つ女性など、強烈で印象的な映像がたくさん出てきます。アクションシーンも迫力満点で、最後まで飽きることがありません。

記憶が自分を作っているけれど、本当に大切なのは今の自分の選択ということを考えてしまいます。

たとえ過去の記憶が偽物でも、今どう行動するかが本当の自分を決めるのだというメッセージが込められており、派手なアクションと深いテーマを両方楽しめる、90年代を代表するSF映画の名作です。

シザーハンズ

画像引用元:映画.com

(NO.0855)

監督:ティム・バートン

105分/PG12/アメリカ
原題または英題:Edward Scissorhands
配給:20世紀フォックス映画

主人公のエドワードは、発明家によって作られた人造人間です。しかし、発明家が亡くなってしまったため、彼の両手はハサミのままで完成されませんでした。ある日、化粧品を売りに来た女性ペグに発見され、普通の住宅街で暮らすことになります。エドワードは庭木を美しくカットしたり、髪を上手に切ったりする才能があり、最初は住民たちに喜ばれます。しかし、見た目が普通と違うため、だんだん周りの人たちから恐れられ、偏見を受けるようになってしまいます。

ティム・バートン監督独特のゴシックで幻想的な世界観と、ジョニー・デップの繊細な演技が特に絶賛されました。音楽を担当したダニー・エルフマンの美しいメロディーも作品の魅力を高めています。

エドワードがハサミの手で作る氷の彫刻や美しい庭木のカットが印象的です。カラフルで整然とした住宅街と、エドワードが住んでいたゴシック調の暗いお城との対比も美しく描かれています。

人と違うことはどういうことなのか?エドワードのように見た目が違っても、その人だけが持つ美しい才能や優しい心があります。見た目だけで人を判断せず、その人の本当の姿を理解しようとすること、誰しもがたちはだかる問題でもあります。

僕を愛したふたつの国/ヨーロッパヨーロッパ

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0856)

監督:アニエスカ・ホランド

111分/フランス・ドイツ合作
原題または英題:Europa Europa
配給:ギャガ・コミュニケーションズ

第二次世界大戦中、ユダヤ人の少年ソロモン(愛称ソリー)が実際に体験した話をもとにしています。

ソリーは戦争で家族と離ればなれになり、最初はソ連の孤児院で過ごします。その後、皮肉なことにドイツ軍に拾われ、ユダヤ人を迫害しているナチスの少年団に入れられてしまいます。自分がユダヤ人だということを隠しながら、敵側で生き延びなければならない、とても複雑で危険な状況に置かれます。

戦争の悲惨さを描きながらも、ユーモアや人間らしさを忘れない演出がインパクトがあります。

ユダヤ人でありながらナチスの中で生きなければならないという、信じられない状況での少年の心の動きが丁寧に描かれています。ホランド監督は悲しい場面だけでなく、皮肉やユーモアも織り交ぜることで、人間の強さも表現しています。ソリーが生き延びるために取る行動は、「正しいこととは何か」を考えさせます。

極限状態でも人は生きようとする強い意志を持っていることは人間の本能でもあります。

「自分が何者であるか」というアイデンティティや、戦争という狂気の中での人間の尊厳について考えさせられます。困難な状況でも希望を失わずに生きることの意味を考えていきましょう。

運命の逆転

画像引用元:映画.com

(NO.0857)

監督:バルベ・シュローデル

111分/アメリカ
原題または英題:Reversal of Fortune
配給:フィーチャー・フィルム・エンタープライズII提供/松竹富士配給

実際にアメリカで起きた有名な事件をもとにしています。お金持ちの家に嫁いだサニーという女性が、ある日突然意識不明の昏睡状態になってしまいます。夫のクラウスは、妻を毒で殺そうとした殺人未遂の疑いで逮捕されます。クラウスの弁護を担当するのは、アラン・ダーショウィッツという有名な弁護士です。彼と学生たちが事件の真相を調べていくうちに、お金持ちの世界に隠された秘密や嘘が明らかになっていきます。

観客は最後まで「クラウスは本当に犯人なのか?」と疑問を持ち続ける、とても巧妙に作られた映画として評価されています。

法廷での裁判の様子だけでなく、弁護士たちが事件の真相を調べていく過程がまるで推理小説のようで面白いです。また、お金持ちの豪華な生活の裏に隠された暗い部分も描かれています。

「真実は一つとは限らない」「人の見方によって事実の受け取り方が変わる」ということをこの映画から学べます。

お金や地位があっても幸せとは限らないとか、物事を簡単に判断してはいけないということも教えてくれます。物事を多角的に見ることを養っていきましょう。

ジェイコブス・ラダー

画像引用元:映画.com

(NO.0858)

監督:エイドリアン・ライン

113分/アメリカ
原題または英題:Jacob’s Ladder
配給:東宝東和

主人公のジェイコブは、ベトナム戦争から帰国した元兵士です。戦争から戻った後、彼は日常生活の中で恐ろしい幻覚や悪夢に悩まされるようになります。周りに怪物のような化け物が現れたり、現実なのか夢なのか分からない不気味な体験をします。ジェイコブは戦争で受けた心の傷と向き合いながら、自分に何が起きているのかを探ろうとします。

過去の記憶と現在の出来事が混ざり合う中で、生と死について深く考えさせられる物語です。

恐怖映画と心理ドラマを上手く組み合わせた脚本と美しい映像が衝撃的でした。内容が複雑で理解が難しいものの、心に残る映画としてカルト的な人気があります。後に作られた『サイレントヒル』などのホラーゲームにも大きな影響を与えた作品として知られています。

地下鉄や病院で起こる不気味で恐ろしいシーンが印象的ですが、同時にジェイコブの家族への愛情や悲しみも丁寧に描かれています。単純に怖いだけではなく、宗教的な意味も込められた内容になっています。

宗教系は嫌う人も多いですが、それはかなり食わず嫌いで損をしています。

人は辛い体験をしたとき、その苦しみとどう向き合うか?

過去の傷にとらわれず、受け入れること。恐ろしい内容もありますが、最終的には魂の救いと成長について考えさせてくれるようなメッセージが含まれているので充分に堪能できる作品です。

1991年

1991年を象徴するイメージ画像です。

ボーイズ’ン・ザ・フッド

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0859)

監督:ジョン・シングルトン

112分/アメリカ
原題または英題:Boyz’n the Hood
配給:コロンビア トライスター映画

舞台は、アメリカのロサンゼルス南部にある黒人居住区「サウスセントラル」という貧しく危険な地域です。主人公は幼なじみの3人の少年たちで、父親と一緒に住む真面目なトレイ、アメリカンフットボール選手として将来を夢見るリッキー、ギャングの世界に足を踏み入れてしまうドウボーイです。彼らは暴力、差別、貧困といった厳しい環境の中で、それぞれ違う人生の道を選んでいきます。

アメリカ社会の不平等を鋭く描きながらも、登場人物を人間らしく描いているという衝撃の作品です。ジョン・シングルトン監督はこの作品で、わずか24歳でアカデミー賞監督賞にノミネートされ、史上最年少記録を作りました。

暴力的なシーンが衝撃的ですが、同時に家族の絆や友情の温かさも丁寧に描かれています。特に、トレイの父親フューリアス(ローレンス・フィッシュバーン)が息子に与える教育と愛情が、子どもの将来にどれほど大切かを教えてくれます。実際の街でロケ撮影をしているため、とてもリアルな雰囲気がありますね。

環境が厳しくても、最終的に人生を決めるのは自分の選択ということを伝えています。

社会の不平等に負けそうになっても、自分の未来は自分で切り開くことができるという希望のメッセージが込められていて、現実の厳しさと人間の強さを教えてくれる作品です。

美しき諍い女

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0860)

監督:ジャック・リヴェット

237分/フランス
原題または英題:La belle noiseuse
配給:コムストック

長年創作から遠ざかっていた老画家フレンホーファーが、若い女性マリアンヌをモデルに迎えて、10年前に未完のまま放置していた絵画「美しき諍い女」の制作を再開します。

「うつくしきいさかいめ」と読みます。

237分という長大な上映時間の中で、画家とモデルの間に生まれる緊張関係、芸術への執念、創造行為に伴う精神的な消耗が克明に描かれます。実際の絵画制作過程をほぼリアルタイムで映し出すという、映画史上稀有な試みによって構成されています。

芸術創造の本質を映画で表現した最高峰の作品として知られています。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、リヴェット監督の代表作として映画史に名を刻んでいます。

画家が一筆一筆キャンバスに向かう様子を、演出的な省略を排してじっくりと見せる手法が圧巻です。絵画が徐々に形を成していく過程での画家の迷い、決断、そしてモデルとの無言の駆け引きが、観客に独特の緊張感と没入感を与えます。芸術創造の苦悩と歓喜を等身大で体験できる稀有な体験ができます。

この映画は創造行為の本質について深い洞察を与えてくれます。

真の芸術は安易な妥協を許さず、創作者に極限までの集中と献身を求めるものであること、そして完成への道のりは決して平坦ではないことを教えてくれます。何かに真剣に取り組む全ての人にとって、集中することの価値と創造の厳しさを再認識させる作品です。

THE RAPTURE

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0861)

監督:マイケル・トルキン

100分/アメリカ
原題または英題:The Rapture
日本公開情報なし

主人公のシャロンは、最初は享楽的で自由な生活を送っている独身女性でした。しかし、そんな生活に空虚さを感じ始めた彼女は、世界の終末を説く宗教に深くのめり込んでいきます。結婚して子どもを産んだ後も宗教的信念は強くなり続け、やがて神の声を聞いたと信じた彼女は、黙示録の預言を実現させるために極端な行動に出ます。

信仰と狂気の境界線を真摯に描いた作品とも言えます。ただし、過激なテーマや衝撃的な結末を見ると、問題作と言われるのもわからなくもないです。

主人公が快楽主義的な生活から宗教的な献身へと完全に変わっていく過程が圧巻です。

特に、子どもとの関係や終末に関する彼女の決断は非常に衝撃的で、現実的な日常描写と宗教的な幻想が交錯する独特の演出も注目すべきでしょう。

信仰や思想には人を救う力もあれば、破壊に導く危険性もあることを考えてみましょう。生きる拠り所をどう持つべきか?宗教系を敬遠する日本だからこそ見てもらいたい作品でもあります。

『死ぬまでに観たい映画1001本』のリスト見ないと絶対に出会うことのできない映画の一つです。日本では未公開のままになっていて、海外のサイトでないと見られない状態です。

牯嶺街 (クーリンチェ) 少年殺人事件

画像引用元:映画.com

(NO.0862)

監督:エドワード・ヤン

236分/PG12/台湾
原題または英題:牯嶺街少年殺人事件 A Brighter Summer Day
配給:ビターズ・エンド

実際の事件から着想を得た青春映画の傑作です。舞台は1960年代初頭の台北で、中国本土から台湾に移住してきた家族の息子シャオスーが主人公です。彼は家庭の問題、学校での挫折、不良グループとの複雑な関係、そして少女ミンへの恋心に揺れ動きながら青春時代を送ります。小さなすれ違いや社会の圧力が積み重なり、最終的に悲劇的な殺人事件へとつながっていく過程が丁寧に描かれています。

台湾ニューシネマを代表する名作として世界的に認められています。4時間近い長編でありながら、青春の苦悩と社会の混乱を壮大なスケールで描き切った傑作で、飽きることはありません。

群像劇として描かれる若者たちの友情、対立、家族間の問題、恋愛感情が、当時の台湾社会の不安定な状況と巧みに重ね合わされています。行き場を失った若者が暴力や破滅へと向かっていく過程は、痛切でありながらも青春の物語でもあり、心が打たれます。

青春期の未熟さと社会環境が人の人生に大きな影響を与えるのでしょう。個人の小さな選択の積み重ねが最終的に人生を決定づけてしまう現実の重さと、人が置かれた環境の複雑さを深く考えさせられます。

個人と社会の関係について根本的な問いを投げかける、圧倒的な映画体験を提供する重要な作品です。

現代社会でも同じような摩擦がたくさん起きており、重くのしかかる内容の映画で見応えがあります。

JFK

画像引用元:映画.com

(NO.0863)

監督:オリバー・ストーン

188分/アメリカ
原題または英題:JFK
配給:ワーナー・ブラザース映画

1963年に起きたジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件の真相を追求する物語で、主人公はニューオーリンズの地方検事ジム・ギャリソンです。政府の公式発表では単独犯による犯行とされていましたが、ギャリソンは数多くの証言や証拠を調査し、政府機関や軍、情報機関が関与した巨大な陰謀の可能性を追及していきます。事実と推測を組み合わせながら、アメリカ史上最大の謎とされる事件の真実に迫ろうとします。

スリリングな編集技術、群像劇的な演出、鋭い政治批判が高く評価され、アカデミー賞では編集賞と撮影賞を受賞しました。ただし、史実と憶測を混在させた内容にもなっていて「陰謀論を広める危険性がある」という批判もあり、当時は賛否両論となりました。

事件の断片的な証拠をつなぎ合わせていく調査過程と、独特の映像表現が圧巻です。ドキュメンタリー風の再現映像と実際の記録映像を巧妙に組み合わせ、観客をまるで事件の現場にいるような感覚にさせます。

権力者が発表する公式見解を鵜呑みにせず、自分で考えて疑問を持つことの重要性は、現代社会にも通じるものがあります。民主主義社会において市民が持つべき批判的思考力と、真実を追求する姿勢の大切さを強く訴えかける作品です。

Slacker(スラッカー)

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0864)

監督:リチャード・リンクレイター

97分/アメリカ
原題または英題:Slacker
日本公開情報なし

インディペンデント映画(自主制作映画)の代表作の一つです。舞台はテキサス州オースティンで、普通の映画のような明確なストーリーはありません。カメラは一人の登場人物から次の人物へと視点を移しながら、大学生、アーティスト、陰謀論を信じる人、夢想家など、街に住む様々な「はみ出し者」たちの会話や日常生活を断片的に映し出していきます。目的や結末がはっきりしないまま流れていく人々の姿は、当時のアメリカの若者文化そのものを表現しています。

インディペンデント映画史上の重要な作品と言われています。批評家たちは「物語よりも時代の空気や精神を捉えた点」「独立系映画の新しい可能性を示した意義」を絶賛しました。商業的には大きな成功ではありませんでしたが、後に『ビフォア・サンライズ』で有名になるリンクレイター監督の出世作となり、アメリカのインディーズ映画界に大きな影響を与えました。

緩やかにつながっていく人々の会話と何気ない日常の佇まいが魅力です。哲学的な議論から他愛もない雑談まで、様々な会話が画面を埋め尽くし、観客はまるで街の意識の流れを体験しているような独特の感覚を味わえます。映像は素朴ですが、その自然なリズムが現実味を生んでいます。

人生には決まった筋書きがなくていいのです。大きな事件や成功がなくても、人々の存在や会話そのものに価値があることを示し、何者でもない普通の人々の時間を大切にすることで、生きることの不思議さと自由を再発見させてくれます。

字幕版はありません。YouTubeで拾うことができます。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明

画像引用元:映画.com

(NO.0865)

監督:徐克(ツイ・ハーク)

100分/香港
原題または英題:黄飛鴻

配給:東和ビデオ

19世紀末の中国・清朝末期が舞台で、欧米の列強諸国が中国に侵略し、国内も混乱していた時代を描いています。主人公は実在した伝説的な武術家・黄飛鴻(ウォン・フェイホン)で、医師として人々を治療する一方、優れた武術の達人として外国勢力や悪徳組織から民衆を守るために戦います。歴史的な背景を持ちながらも、エンターテインメント性に富んだ作品として、中国人の誇りと文化的アイデンティティを力強く描いています。

批評家たちは「ツイ・ハーク監督のダイナミックな演出と壮大な歴史スケール」「若き日のジェット・リーの圧倒的な存在感」を絶賛しました。

何といってもワイヤーアクションと伝統武術を融合させたダイナミックな戦闘シーンが圧巻です。迫力と美しさを兼ね備えたアクションは見応え十分です。また、黄飛鴻の師弟関係や恋愛描写が物語に人間味を加え、単純なヒーロー物語を超えた、ドラマ性もあって楽しめます。

困難な時代や外からの圧力があっても、自分の文化や信念を守り抜く強さを得られるような作品です。アクション映画としての爽快感とともに、歴史を背負って生きる人間の誇りと覚悟を感じさせる、力強いメッセージを持っています。

テルマ&ルイーズ

画像引用元:映画.com

(NO.0866)

監督:リドリー・スコット

129分/アメリカ
原題または英題:Thelma & Louise
配給:アンプラグド

女性の友情と自由をテーマにしたロードムービーの傑作です。主人公は平凡な主婦テルマとウェイトレスのルイーズで、退屈な日常から抜け出すために小旅行に出かけます。しかし旅の途中で思わぬ事件に巻き込まれ、二人は警察に追われる身となってしまいます。逃避行を続けながらも、彼女たちは自分たちの人生を自分で決めようとする強い意志を固めていきます。アメリカ西部を舞台にしたこの旅路は、単なる逃走劇を超えた深い意味を持つ物語となっています。

当時のハリウッドでは珍しかった「女性同士の連帯と友情」を真剣に描いた点や、エネルギッシュな演出が特に絶賛されました。

アメリカ西部の雄大な風景を背景に、抑圧された状況から解放されていく二人の女性の変化が痛快に描かれています。特にラストシーンは映画史に残る名場面として語り継がれています。

自由を求める勇気とその代償について考えさせられます。社会の理不尽さや偏見に立ち向かい、自分の人生を自分で選択することの意味と重さを教えてくれる作品です。

マイ・プライベート・アイダホ

画像引用元:映画.com

(NO.0867)

監督:ガス・ヴァン・サント

104分/PG12/アメリカ
原題または英題:My Own Private Idaho
配給:マジックアワー

主人公は二人の若い男性で、一人はナルコレプシー(突然眠ってしまう病気)を患う孤独なストリート・ハスラーのマイク、もう一人は裕福な家庭に生まれながら家族に反発して同じ世界に身を置くスコットです。二人はアイダホ州からポートランド、さらにイタリアまで旅をしながら、自分たちの居場所と本当の愛を探し続けます。社会の底辺で生きる若者たちの心の叫びを詩的に描いた作品です。

詩的でありながら荒涼とした映像美や、孤独と切望を真正面から描いた誠実さを感じる作品で、海外でも高く評価されました。独創性がカルト的な名作として愛され続ける理由となっています。

同性愛の表現もしっかりと描写できており、90年代から風向きが確実に変わってきたことが実感できます。

ロードムービーとしての自由な構成と、シェイクスピア作品の要素を織り交ぜた独創的な表現が印象的です。荒野の広大な風景と都市部の暗い雰囲気、そして幻想的なシーンが、マイクの不安定な内面を美しく映し出しています。マイクがスコットに想いを告白する場面は、映画史に残る感動的なシーンとして語り継がれています。

愛もアイデンティティも、誰かから与えられるものではなく、自分で探し続けなければならないということでしょう。居場所を求めてさまよう若者たちの痛みと美しさを描く青春の物語として、心に響く作品です。

羊たちの沈黙

画像引用元:映画.com

(NO.0868)

監督:ジョナサン・デミ

118分/PG12/アメリカ
原題または英題:The Silence of the Lambs

配給:ギャガ、ヒューマックス

FBI訓練生のクラリス・スターリングは、「バッファロー・ビル」と呼ばれる連続殺人鬼を捕まえるために、監獄に収監されている天才精神科医で殺人犯のハンニバル・レクター博士に助けを求めます。レクター博士は非常に頭が良く、人の心を読むのが得意ですが、同時に恐ろしい殺人鬼でもあります。クラリスは彼から事件解決の手がかりを得ようとしますが、その過程で自分の過去のトラウマとも向き合うことになります。

サイコスリラー映画の最高峰として、現代でも輝き続けています。批評家たちは「心理戦の緊張感」「主演二人の圧巻の演技」「スリラーと人間ドラマの完璧な融合」を絶賛しました。アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞の主要5部門を独占受賞するという快挙を達成し、映画史に名を残す作品となりました。

レクター博士とクラリスが監獄の格子越しに行う会話シーンが圧巻です。この心理戦の緊張感は映画史上でも屈指のもの。バッファロー・ビルを追うサスペンス展開と、クラリス自身の成長物語が同時に進行する巧妙な構成も見応えがあります。

クラリスは恐ろしい殺人鬼を追う中で自分の弱さや過去の傷と向き合い、最終的に強さを身につけます。困難から逃げずに立ち向かう勇気の重要性を描いた作品です。

ターミネーター2

画像引用元:映画.com

(NO.0869)

監督:ジェームズ・キャメロン

137分/アメリカ
原題または英題:Terminator 2: Judgmant Day
配給:東宝東和

前作では人類の敵だったターミネーターが、今度は人類の味方として未来から送り込まれます。彼の使命は、将来人類の指導者となる少年ジョン・コナーを守ることです。しかし同時に、より進化した液体金属でできた新型ターミネーター「T-1000」もジョンを殺すために送り込まれます。ジョンの母親サラ・コナーを含む三人は、人工知能が人類を滅ぼす「審判の日」を阻止するために戦います。

SFアクション映画の最高峰として認められています。当時としては革新的なVFX(視覚効果)とスリリングなアクション、そして人間ドラマを完璧に融合させた完成度の高さが絶賛されました。アカデミー賞では視覚効果賞、音響賞、メイクアップ賞、音響編集賞の4部門を受賞し、映画界に大きな衝撃を与えました。

最新技術を使った迫力あるアクションシーンはもちろんですが、冷酷な機械だったターミネーターがジョンとの交流を通して人間らしさを学んでいく姿が感動的です。単なるSFアクションを超えて、心に残る人間ドラマとしても優れています。T-1000の液体金属で変形する特殊効果も当時としては画期的でした。

この映画は「未来は決められたものではなく、自分の選択と行動で変えることができる」という希望に満ちたメッセージを伝えています。どんなに絶望的な状況でも、人間の意志と努力によって運命を変えられることを教えてくれる作品です。

デリカテッセン

画像引用元:映画.com

(NO.0870)

監督:ジャン=ピエール・ジュネ、マルク・キャロ

100分/PG12/フランス
原題または英題:Delicatessen
配給:Diggin’

ブラックユーモア溢れる異色の映画です。舞台は戦争後の荒廃した世界で、食糧不足に苦しむ人々が暮らすアパートが舞台です。1階にある精肉店の主人は、新たに雇った下宿人を次々と「肉」として利用するという恐ろしい商売をしています。ある日、元サーカス芸人のルイゾンがこのアパートで働き始め、精肉店主の娘ジュリーと恋に落ちます。やがて彼はこの異常な状況に立ち向かうことになります。グロテスクでありながらロマンティックな、独特な世界観を持った作品です。

独創的な映像美とブラックユーモアの絶妙な融合や、ポストアポカリプス的世界を風刺とロマンスで描いた独自性は絶賛されました。

アパートに住む奇妙な住人たちのキャラクター造形と、詩的でコミカルな映像表現が印象的です。ユーモラスでありながら残酷、ロマンティックでありながら皮肉的という相反する要素が同居した唯一無二の世界観が魅力です。音のリズムと映像の動きを完璧にシンクロさせた演出技法も見事です。

どんなに絶望的な状況でも、人間は愛やユーモアを失わないことが人生に希望をもたらしてくれます。

閉塞的で異常な社会の中でも希望や人間同士のつながりが生まれる可能性を、グロテスクな世界観を通して逆説的に描いた深いメッセージを持つ作品です。

ふたりのベロニカ

画像引用元:映画.com

(NO.0871)

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ

98分/フランス・ポーランド合作
原題または英題:La double vie de Veronique
配給:ビターズ・エンド

物語の主人公は、同じ日に生まれ、似たような歌の才能を持ちながら、全く違う国で暮らす二人の女性です。一人はポーランドに住むヴェロニカ、もう一人はフランスに住むヴェロニクで、両方ともアイリーン・ジャコブが演じています。二人は直接会うことはありませんが、なぜか互いの存在を無意識に感じ取り、目に見えない不思議な絆で結ばれています。愛、芸術、人生の選択をテーマに、夢と現実が混じり合うような美しい物語が展開されます。

カンヌ国際映画祭では女優賞と国際批評家連盟賞を受賞し、キェシロフスキ監督を世界的な巨匠として確立させた重要な作品です。抽象的で説明の少ない内容で、受け取り方大きく異なるかもしれません。

幻想的で詩的な映像表現と美しい音楽が最大の魅力です。独特の光の使い方やスローモーションが、現実を超えた神秘的な雰囲気を作り出し、二人の女性の魂のつながりを象徴的に表現しています。音楽が彼女たちの運命を導く重要な役割を果たし、観客を不思議な世界へと誘います。

人間は一人で生きているようでいて、実は見えない糸で他の人とつながっているということでしょうか?

目に見えないつながりや直感的な感覚を信じることで、人生はより豊かで深い意味を持つようになることを、美しい映像を通して伝えてくれます。

TONGUES UNTIED

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0872)

監督:マーロン・リッグス

55分/アメリカ
原題または英題:Tongues Untied
日本公開情報なし

アメリカで暮らす黒人のゲイ男性たちの実際の体験を描いているドキュメンタリー映画です。監督自身も黒人でゲイであり、自分の体験をもとにして作られました。普通のドキュメンタリーとは違い、詩の朗読、ダンスパフォーマンス、インタビュー、映像詩などを組み合わせた実験的な手法を使っています。当時のアメリカ社会で差別を受け、声を上げることができなかった人々の現実を、芸術的で政治的な表現を通して明らかにした重要な作品です。

「個人的な告白と社会的なメッセージを融合した革新的なドキュメンタリー」として絶賛されました。実験的なスタイルと強いメッセージ性が特に評価されています。

一方で、保守的な人々からは激しい批判も受け、放映や上映をめぐって大きな議論を呼んだ問題作でもあります。それだけに、この映画が「声なき人々に声を与えた」意義は非常に大きく、アメリカの映像文化史上重要な位置を占めています。

従来のドキュメンタリーの枠を超えた多彩な表現手法が印象的です。詩のリズム、ダンス、個人の体験談が重なり合い、観客は普段聞くことのできない人々の本当の声に直接触れることができます。映像そのものが抵抗の手段であり、同時にコミュニティの結束を表現している点も強烈です。

社会で差別を受けている人々が勇気を持って語ることで、自分の存在を肯定し、より良い未来を作ることができることを示しています。マイノリティの尊厳と連帯の重要性を強く訴える作品です。

紅夢

画像引用元:映画.com

(NO.0873)

監督:張芸謀(チャン・イーモウ)

125分/中国・香港合作
原題または英題:大紅燈籠高高掛 Raise the Red Lantern
配給:AMGエンタテインメント

舞台は20世紀初頭の中国で、主人公のソンリェンは裕福な一家の「四番目の妻」として嫁ぎます。この家では、夫が寵愛する妻の部屋に赤い提灯を灯すという習わしがあり、妻たちは夫の愛を得るために激しく競い合います。愛と嫉妬、権力争いが渦巻く閉鎖的な屋敷の中で、ソンリェンは徐々に過酷な運命に巻き込まれていきます。封建的な家父長制度の下で生きる女性たちの苦悩を、美しくも残酷に描いた作品です。

ヴェネツィア国際映画祭では銀獅子賞を受賞するなど、国際的に高く評価されています。一方で、中国国内では封建制批判や政治的なメッセージが問題視され、公開当時は議論を呼んだ問題作でもありました。

タイトルにもなっている「赤い提灯」を中心とした美しい映像が印象的です。豪華な屋敷の閉ざされた空間と、赤い光に照らされた妻たちの姿が、抑圧と欲望を象徴的に表現しています。静かなカメラワークと美しい音楽が、緊張感に満ちた物語をより一層引き立てています。

愛も幸福も、権力争いと嫉妬に支配されてしまう現実を通して、人間の尊厳と自由の大切さを強く問いかけています。美しい映像の裏に隠された深い悲劇を描いた重要な作品です。

ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0874)

監督:エレノア・コッポラ、ジョージ・ヒッケンルーパー、ファックス・バー

97分/アメリカ
原題または英題:Hearts of Darkness: A Filmmaker’s Apocalypse
配給:日本ヘラルド映画

映画『地獄の黙示録』の過酷な撮影舞台裏を記録したドキュメンタリーです。フィリピンで行われた撮影は、天候不順、予算超過、主演交代、監督フランシス・フォード・コッポラの精神的な疲弊など、数々のトラブルに見舞われました。エレノア・コッポラが記録した映像や日誌をもとに制作された本作は、傑作映画誕生の裏に隠された「狂気」と「執念」を赤裸々に映し出しています。

アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞にもノミネートされ、単なる付随作品を超えた芸術的価値を認められています。

見どころは、コッポラ監督自身の葛藤と混乱です。資金繰りに追われ、精神的に追い詰められながらも作品を完成させようとする姿は、英雄的であると同時に危うさを帯びています。また、マーロン・ブランドやマーティン・シーンら出演者の舞台裏の素顔も興味深く、フィクション映画では決して見られない緊張感が漂います。

極限状況に追い込まれたとき、人間は狂気すら抱えながらも作品を生み出す。その姿に触れることで、芸術を生み出す覚悟や代償の大きさを考えさせられます。映画づくりの光と影を凝縮したドキュメンタリーです。

裸のランチ

画像引用元:映画.com

(NO.0875)

監督:デヴィッド・クローネンバーグ

115分/PG12/イギリス・カナダ合作
原題または英題:Naked Lunch
配給:東北新社

ウィリアム・S・バロウズの同名小説を下敷きにした実験的な作品です。原作は“映像化不可能”とまで言われた難解な小説であり、クローネンバーグは小説そのものの断片と、バロウズの実人生を織り交ぜることで独自の映画世界を築きました。物語は害虫駆除業者のビルが、幻覚作用のある薬物を常用するうちに現実と幻想の境界が崩れ、謎の都市「インターゾーン」で異形の生物や陰謀に巻き込まれていく、という芸術的な展開です。

人間の欲望と創作の本質を描き出した異形の傑作でもあり、独創性と挑発性は独特のものです。ただ、難解で不気味なイメージもあって「理解よりも体験する映画」でもあります。

グロテスクで奇想的なビジュアルですは見入ってしまいます。タイプライターが昆虫のように変形し、現実と妄想が混じり合う映像は強烈で、観客を不安と陶酔の狭間へ引き込みます。また、全編を覆う不条理なユーモアと不気味な静けさは、他の映画では味わえない独特の世界観を形作っています。

秩序や論理では説明できない衝動や幻想こそが人間を突き動かす力である、とクローネンバーグは示唆します。理解を超えたところにある創造の深淵を垣間見せる作品なのです。

1992年

1992年を象徴するイメージ画像です。

ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0876)

監督:ジェフリー・ライト

85分/オーストラリア
原題または英題:Romper Stomper
日本公開情報なし

舞台はオーストラリアのメルボルンで、ネオナチ思想を持つ若者グループの暴力的な活動と崩壊を描いています。リーダー格のフーリーは移民に対する強い憎悪を抱き、仲間たちと一緒に暴力事件を繰り返します。しかし、中国系移民グループとの激しい抗争、仲間内での裏切り、恋愛関係のもつれなどが重なり、グループは徐々に自滅的な崩壊へと向かっていきます。極端な思想に支配された若者たちの現実を生々しく描いた問題作です。

ネオナチ思想の現実を直視させる重要な作品ともいえます。その反面、暴力描写が刺激的で思想を美化して危険では?と思わせるほどのインパクトもあります。

荒々しい映像と激しい暴力描写の中で、仲間だったはずの若者たちが欲望や疑念によって次第に壊れていく様子が印象的です。極端な思想だけでなく、人間そのものの弱さや脆さが浮き彫りにされています。

移民との対立シーンは、当時のオーストラリア社会が抱えていた多文化間の摩擦を象徴的に表現しています。

この映画は「憎悪と暴力に基づいた結びつきは必ず崩壊する」ことを教えてくれます。

一時的には仲間意識や力を得られるように見えても、排他的で破壊的な考えに基づいている限り、最終的には自滅してしまうことを示しています。社会の問題を鋭く描きながら、暴力の連鎖の愚かさを問いかけます。

ダンシング・ヒーロー

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0877)

監督:バズ・ラーマン

92分/オーストラリア
原題または英題:Strictly Ballroom
配給:日本ヘラルド映画

主人公のスコットは社交ダンス界の若きスターですが、大会で決められたステップではなく、自分が考えた独創的なダンスを踊ってしまいます。これが保守的なダンス連盟から強く批判され、パートナーからも見放されてしまいます。そこで、地味で経験の浅い新人ダンサーのフランと組むことになります。二人は最初はぶつかり合いながらも、お互いの情熱を理解し合い、独自のダンススタイルを完成させて大会に挑戦します。

オーストラリア映画の代表作の一つとしても有名です。型破りな演出と色彩豊かな映像美や、古典的なシンデレラストーリーをユーモアと風刺で包んだ軽快さは絶賛されてしかるべき。

この作品は後にラーマン監督が手がける『ロミオ+ジュリエット』や『ムーラン・ルージュ』などの華やかでエネルギッシュなスタイルの原点としても知られています。

伝統的な社交ダンスの世界と若者の自由な発想が衝突するドラマが印象的です。

鮮やかな衣装や演出、情熱的な音楽に乗せて繰り広げられるダンスシーン、はたまた、不器用ながらも純粋に夢を追いかける二人の成長の姿に感動させられます。

周りの人たちの価値観に縛られず、恐れることなく自分のペースで生きることの重要性を示しています。たとえ失敗しても、それは自分だけの特別な輝きになることを、人生を踊るように楽しく生きる勇気とともに伝えています。

ザ・プレイヤー

画像引用元:映画.com

(NO.0878)

監督:ロバート・アルトマン

124分/G/アメリカ
原題または英題:The Player
配給:大映

ハリウッドの映画業界を舞台にしたブラック・コメディ・サスペンスです。主人公のグリフィン・ミルは大手映画会社の重役で、毎日たくさんの映画企画を審査し、冷酷にボツにする仕事をしています。ある日、彼のもとに企画を却下された脚本家からの脅迫状が届きます。次第に追い詰められたグリフィンは、ついに殺人事件を起こしてしまいます。しかし彼はその罪を隠しながら、映画業界での地位を保ち続けようとします。華やかに見える映画産業の裏側にある打算と欲望を鋭く風刺した作品です。

群像劇的な手法や、映画業界に対する皮肉に満ちた批判が絶賛されました。オープニングの8分間にわたる長回しシーンや、実際の映画業界の著名人が本人役で多数出演することでも話題となりました。

サスペンスとしての緊張感と、映画業界を笑い飛ばすユーモアが絶妙に融合している点が魅力です。主人公が罪を犯しながらも逆に成功してしまうという皮肉な展開が、夢を売るハリウッドの裏側にある冷酷な現実を浮き彫りにしています。また、実際の映画業界の人たちが自分自身をパロディ化して登場する仕掛けも見どころの一つです。

成功や権力の裏側には必ず代償や嘘があることを教えてくれます。映画業界という特殊な世界を通して、人間社会全体にある野心と矛盾を鋭く描き出した、ユーモラスでありながら深い洞察を持つ作品です。

レザボア・ドッグス

画像引用元:映画.com

(NO.0879)

監督:クエンティン・タランティーノ

100分/PG12/アメリカ
原題または英題:Reservoir Dogs
配給:鈴正、フラッグ

6人の男たちが宝石店強盗を計画しますが、作戦は失敗に終わります。警察がすぐに現場に駆けつけたことから、仲間の中に裏切り者がいることが判明します。倉庫に集まった男たちは、お互いを疑い始め、「誰が警察に情報を流したのか」をめぐって緊張が高まっていきます。普通の映画のように時間順に話が進まず、過去と現在を行き来しながら真相が明かされていく斬新な構成が特徴的です。

1990年代を代表するインディペンデント映画として認められています。タランティーノ監督の斬新な脚本術、音楽の使い方、キャラクターの描き方が絶賛されました。過激な暴力表現が衝撃でしたが、それが90年代映画の新しい流れを作るきっかけとなりました。

登場人物たちの緊張感のある会話と、突然爆発する暴力のコントラストが印象的です。特に「耳のシーン」は映画史に残る衝撃的な場面として有名です。また、オープニングの食堂での何気ない会話から一気に修羅場へと転落していく展開も魅力の一つです。限られた場所での会話劇でありながら、観客を最後まで惹きつける構成力が見事です。

「鮮やかな口げんか」をぜひ堪能してほしいです。

信頼と裏切りは紙一重であることを痛感します。

仲間だと思っていた相手でも、状況によっては疑わざるを得なくなる人間関係の脆さ。暴力とユーモアの裏に隠された人間の不信と孤独を描き出した、映画史に残る重要な作品です。

摩天楼を夢見て

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0880)

監督:ジェームズ・フォーリー

100分/アメリカ
原題または英題:Glengarry Glen Ross
配給:東宝東和

デイヴィッド・マメットのピュリッツァー賞受賞戯曲を映画化した作品です。舞台は不動産会社のオフィスで、成績が悪い営業マンたちが本社から「成績上位者以外はクビ」という厳しい通告を受けます。彼らは必死になって顧客を騙したり、同僚を裏切ったりしながら契約を取ろうと奔走します。一晩のオフィスを中心に、焦り、裏切り、卑劣な駆け引きが繰り広げられ、資本主義社会の冷酷で非情な現実が浮き彫りにされています。

演技派俳優たちの傑作として知られています。アル・パチーノ、ジャック・レモン、エド・ハリス、アラン・アーキン、ケヴィン・スペイシー、アレック・ボールドウィンといった豪華俳優陣による濃密な演技合戦が絶賛されました。

セリフの応酬による迫力が最大の魅力です。テンポの速い会話劇は、アクション映画よりも激しい緊張感を生み出しています。特にアル・パチーノやアレック・ボールドウィンによる強烈な演説は、資本主義の非情さを象徴する名場面でもあります。

競争社会で生きる人間の孤独と焦燥を鋭く描き出し、現代社会にも通じる重要な警鐘を鳴らす、普遍的なメッセージを持った作品です。

冬物語

画像引用元:映画.com

(NO.0881)

監督:エリック・ロメール

114分/フランス
原題または英題:Conte d’hiver
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム

「四季の物語」シリーズの一作です。主人公の若い女性フェリシーは、数年前の夏に恋人と別れる時、うっかり住所を間違えて教えてしまったために連絡が取れなくなってしまいました。現在の彼女は、その恋人との間にできた娘を一人で育てながら、二人の男性から愛を告白されて悩んでいます。一人は理髪師のマクサンス、もう一人は図書館員のロイックです。しかし心の奥では、あの夏の恋人チャルルを忘れることができず、いつか再会できると信じ続けています。偶然と信念が人の運命をどう変えるかを静かに描いた作品です。

運命と信念をめぐる寓話的な物語を、日常的な会話とシンプルな映像で描いたロメールらしい傑作と評価されています。派手な演出を使わず、自然な会話の中に深いテーマを込める手法が何とも言えない味わいがあります。

フェリシーの揺れ動く心を丁寧に描いた会話劇と、日常生活の中に隠れた小さなドラマが魅力です。何気ない風景や普通の会話が積み重なって、最後の奇跡のような再会シーンを強く印象づけます。また、自分の信念を貫き通すフェリシーの姿が、観客に不思議な説得力と感動を与えます。

人は理屈だけではなく、希望や信念によって未来を切り開くことができることを痛感します。

現実がどんなに不確かでも、自分の思いを諦めない心が人生を動かす力になることを、愛と信念とともに伝えてくれる作品です。

許されざる者

画像引用元:映画.com

(NO.0882)

監督:クリント・イーストウッド

131分/アメリカ
原題または英題:Unforgiven

配給:ワーナーブラザーズ

主人公のウィリアム・マニーは、かつて恐れられた無法者でしたが、現在は農夫として静かに暮らしています。ある日、町で娼婦が残酷な暴行を受ける事件が起き、犯人に賞金がかけられます。生活に困ったマニーは、昔の相棒ネッドと若いガンマンと一緒に、賞金稼ぎとして再び銃を手にします。しかし、その町には冷酷な保安官リトル・ビルがおり、暴力と復讐の恐ろしい連鎖が始まります。従来の西部劇とは違い、暴力の現実と代償を厳しく描いた作品です。

アカデミー賞では作品賞、監督賞、助演男優賞(ジーン・ハックマン)、編集賞の4部門を受賞し、イーストウッドの監督としての地位を確立させました。西部劇を神話的な世界から現実に引き戻し、暴力の本当の恐ろしさを描いた作品として知られています。

英雄的な西部劇ではなく、人間の弱さに焦点を当てた点が印象的です。かつてのガンマンも年を取り、酒に頼り、過去を後悔しています。銃撃戦も華やかではなく、痛みと虚しさを伴います。

この映画は「暴力には必ず代償があり、人は過去から完全に逃れることはできない」ことを教えてくれます。

西部劇の美しい幻想はそのままで、かつ人間の本質について深く考えさせる作品で、西部劇の良さを存分に引き出しています。

ロアン・リンユィ/阮玲玉

画像引用元:映画.com

(NO.0883)

監督:スタンリー・クワン

154分/香港
原題または英題:Actress 阮玲玉
配給:東宝東和

1930年代の中国映画界で活躍した伝説的女優・阮玲玉(ルアン・リンユー)の人生を描いています。彼女はサイレント映画時代に、庶民の苦しみや女性の悲しみをリアルに演じることで多くの人から愛される大スターになりました。しかし私生活では恋愛スキャンダルや新聞の過剰な報道に苦しめられ、わずか24歳の若さで自ら命を絶ってしまいます。

この映画では、阮玲玉を演じるマギー・チャンの撮影現場やインタビューを交えながら、過去と現在を行き来するユニークな構成で、スターの本当の姿と世間のイメージの違いを浮かび上がらせています。

香港映画の代表作の一つでもあります。映画というメディア自体についての深い考察を含んだ優れた伝記映画だと思っています。マギー・チャンはこの役でベルリン国際映画祭の女優賞(銀熊賞)を受賞し、国際的な評価を確立しました。

実在の阮玲玉の映像とマギー・チャンの演技が交互に現れる点が最大の特徴です。「女優が女優を演じる」という複雑な表現によって、映画と現実の境界線が曖昧になります。また、当時の上海映画界の華やかさと、それを取り巻く社会的な抑圧との対比も見応えがあります。

スターは人々の憧れの存在である一方で、メディアや世間の視線に常にさらされる脆い存在でもあることを示し、「生きることと演じることの意味」について深く考えさせてくれる作品です。

ありふれた事件

画像引用元:映画.com

(NO.0884)

監督:レミー・ベルヴォー、アンドレ・ボンゼル、ブノワ・ポールヴールド

96分/ベルギー
原題または英題:C’est arrive pres de chez vous
配給:アルバトロス

3人が共同で監督した衝撃的なブラック・コメディ映画です。連続殺人鬼のベンを取材するドキュメンタリー番組の制作スタッフの視点で物語が進みます。ベンは平然と殺人を繰り返しながら、社会や芸術、日常生活について普通に話をし、それを撮影班が淡々と記録していきます。しかし次第に撮影スタッフも彼の暴力に巻き込まれていきます。フェイク・ドキュメンタリー形式を使って、暴力が日常化することの恐ろしさやメディアの責任を強烈に風刺した問題作です。

中身は賛否両論あったものの、インディペンデント映画としては異例の国際的成功を収め、カルト的な評価を確立した作品として知られています。

日常生活と殺人を同じレベルで描く冷徹さが最大の特徴です。ベンが家族や芸術について語る場面と人を殺害する場面が自然につながって描かれることで、暴力がいかに普通の日常に紛れ込んでいくかを実感させます。

撮影班が徐々に加害行為に加担していく展開は、観客に「見ることは共犯行為ではないか」という厳しい問いを投げかけます。

暴力を見て消費する私たちの視線も、暴力を助長する可能性があることを教えてくれます。映像と倫理の関係について鋭く問題提起する挑発的な内容です。

人間の本能というか、現代の日本社会での「見て見ぬふり」の本質を表しているとも言えます。

クライング・ゲーム

画像引用元:映画.com

(NO.0885)

監督:ニール・ジョーダン

112分/PG12/イギリス
原題または英題:The Crying Game
配給:東北新社

舞台は北アイルランド紛争の時代で、IRA(アイルランド共和軍)の一員ファーガスが英国兵ジョディを拉致するところから始まります。監視中に二人は意外にも友情を育みますが、やがて悲劇的な結末を迎えます。その後ファーガスはロンドンに逃れ、ジョディの恋人ディルと出会って恋に落ちます。しかし、ディルには大きな秘密があり、それがファーガスの人生観を根底から揺さぶることになります。愛とアイデンティティについて深く問いかける作品です。

1990年代を代表する名作の一つで、ジャンルの枠を超えた独創的な物語や人間性を真摯に描いた姿勢が見るものを虜にします。当時としては非常に挑戦的だったディルの設定について議論もありましたが、その革新性が映画史に残る理由となっています。

サスペンスの緊張感と恋愛ドラマの繊細さが巧みに組み合わされている点が魅力です。特にファーガスとディルの関係は単純なラブストーリーを超えて、「人を愛するとは何か」という根本的な問いを投げかけます。また、民族紛争という重い社会的背景がより深い意味を与えています。

愛は境界や偏見を乗り越えて存在するということでしょうか?

政治的・社会的な対立があっても、人と人とのつながりは普遍的であり、そこに希望があることを示している作品とも言えます。

アイリーン・ウォーノス:セイリング・オブ・ア・シリアル・キラー

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0886)

監督:ニック・ブルームフィールド(ニコラス・ブルームフィールド)

87分/イギリス
原題または英題:Aileen Wuornos: The Selling of a Serial Killer
日本公開情報なし

実在したアメリカの女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノスを題材にしたドキュメンタリー映画です。元売春婦だった彼女は、1989年から1990年にかけて7人の男性を殺害し、死刑判決を受けました。しかし、この映画は事件そのものよりも、裁判を取り巻く状況に注目しています。彼女の養母、弁護士、メディアなどが、彼女を「商品」として利用してお金儲けをしようとする姿を冷静に記録し、アメリカの司法制度とメディア報道の問題点を鋭く告発した作品です。

社会派ドキュメンタリーとしての代表作の一つ。犯罪者本人よりも、彼女を取り巻く人々の利害関係と搾取の実態を暴いた重要な作品として、ブルームフィールド監督の冷静な観察力が光ります。

観客の中には彼女の人間性についてもっと深く掘り下げてほしかったという意見もありましたが、後にシャーリーズ・セロン主演で映画化された『モンスター』(2003年)などの基礎となった重要な作品として位置づけられています。

事件の真相を明らかにすることよりも、「彼女がどのように利用されたのか」に焦点を当てている点が特徴です。警察、弁護士、メディアがそれぞれの利益のために彼女の存在を利用する様子は不気味でありながら、現実の権力構造の問題を映し出しています。

この映画は「真実が誰かの都合によって歪められる危険性」を訴えています。

人間の悲劇すらも商品化される社会の残酷さを突きつけ、メディアと司法制度、そして人間の欲望の関係について深く考えさせられます。

キャンディマン

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0887)

監督:バーナード・ローズ

98分/アメリカ
原題または英題:Candyman
配給:パイオニアLDC

舞台はアメリカ・シカゴの貧しい公営住宅街で、大学院生のヘレンが主人公であるホラー映画です。彼女は「鏡の前で『キャンディマン』と5回唱えると、鉤爪の手を持つ黒人の殺人鬼が現れる」という都市伝説を研究テーマにしています。調査を進めるうちに、彼女の周りで不可解な殺人事件が次々と起こり始めます。やがて伝説は現実となり、ヘレン自身が恐怖の渦に巻き込まれていきます。単なるホラー映画ではなく、アメリカ社会の人種差別や貧困問題を背景に描いた社会派ホラーとして注目された作品です。

批評家たちは「単純なスラッシャー映画を超えて、アメリカ社会に根深く存在する人種差別や都市部の貧困問題をホラーとして描いた野心的な作品」と絶賛しました。特にトニー・トッド演じるキャンディマンの不気味でありながら哀しみを帯びた存在感は、ホラー映画史に残るキャラクターとして確立されています。

恐怖の演出と深刻な社会問題を巧妙に組み合わせた点が魅力です。身近な都市伝説をホラーに発展させながら、キャンディマンの誕生背景にある人種差別とリンチの歴史を織り込むことで、単純な怪物映画に深い意味を与えています。

恐怖や怪談は社会の問題から生まれるということでしょうか?

都市伝説や怖い話は単なる娯楽ではなく、差別や貧困といった現実の社会問題が形を変えて表れたものであることを示し、社会の闇について深く考えさせてくれる作品で、見応えがあります。

ドラキュラ

画像引用元:映画.com

(NO.0888)

監督:フランシス・フォード・コッポラ

128分/アメリカ
原題または英題:Bram Stoker’s Dracula
配給:コロンビア トライスター映画

ブラム・ストーカーの古典小説を映画化したゴシック・ロマンス作品です。15世紀に最愛の妻を失い、呪いによって吸血鬼となったドラキュラ伯爵が、19世紀のロンドンで亡き妻に瓜二つの女性ミナと出会います。伯爵は彼女への愛に再び燃え上がりますが、若い弁護士ジョナサンやヴァン・ヘルシング教授が伯爵の野望に立ち向かいます。血と愛、永遠と死をテーマにした壮大な物語が展開されます。

物語の展開や一部の演技については意見が分かれるところですが、豪華絢爛な美術と映像美は高く評価され、アカデミー賞では衣装デザイン賞、音響効果編集賞、メイクアップ賞の3部門を受賞しています。

光と影、血と愛を極端に誇張した幻想的な映像美が最大の魅力です。CGに頼らず、古典的な映画技術を駆使して作り上げられた美しいビジュアルが、観客を19世紀のゴシック世界へと引き込みます。また、ドラキュラを単なる恐ろしい怪物ではなく、愛に飢えた悲劇的な存在として描いた人間性の描写も印象的です。

愛の力は永遠に続くが、同時に人を破滅にも導く可能性があるということ。う~ん、深いですね。

人間の深い欲望と孤独、そして愛することの喜びと苦悩を壮麗な映像を通して描いた、恐怖とロマンスが融合した作品です。

1993年

1993年を象徴するイメージ画像です。

青い凪

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0889)

監督:田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)

136分/中国
原題または英題:The Blue Kite 藍風箏
配給:ユーロスペース

1950年代から1970年代にかけての中国・北京を舞台に、少年ティエルウ(鉄頭)とその家族の生活を描く歴史ドラマです。この時期の中国では文化大革命や反右派闘争といった激しい政治運動が起こり、多くの人々が政府の政策に翻弄されました。ティエルウの父親や義父たちも次々と政治的な理由で苦境に追い込まれ、家族の平穏な生活は崩壊していきます。少年が手にする「青い凧」は、厳しい時代の中でもかすかに残る希望と自由の象徴として描かれています。

「個人の家族生活を通して中国の複雑な政治史を鋭く描いた」「静かでありながら圧倒的な感動を与える叙事詩」と絶賛されました。

しかし政治的に敏感な内容であったため中国国内では上映禁止となり、監督は事実上の映画制作活動制限を受けることになりました。このため、表現の自由をめぐる重要な問題を提起した作品としても知られています。

政治的な大きな変化を直接的に描くのではなく、家族の日常生活を通して表現している点が特徴的です。食事の風景、結婚式、子どもの遊びなど、ごく普通の生活の描写が、時代の圧力によって少しずつ壊されていく過程は感動を覚えます。さらに、詩的で美しい映像と子どもの純粋な視点が面白いですね。

大きな歴史の流れが個人の幸せを容赦なく奪うことがあるという厳しい現実をつきつけられます。

同時に、人が人を思いやる気持ちや小さな希望は決して消えないことも示しており、時代の残酷さの中にある人間の強さを静かに描いています。

フィラデルフィア

画像引用元:映画.com

(NO.0890)

監督:ジョナサン・デミ

125分/アメリカ
原題または英題:Philadelphia

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

当時まだタブー視されていたエイズ問題を真正面から扱った重要な作品です。主人公のアンドリュー・ベケットは、大手法律事務所で働く優秀な弁護士でした。しかし、エイズに感染していることと同性愛者であることが職場に知られ、不当に解雇されてしまいます。彼は差別と闘うため、最初は偏見を持っていた黒人弁護士ジョー・ミラーに弁護を依頼します。二人は法廷での戦いを通じて、お互いの偏見を乗り越え、真の友情と理解を築いていきます。

ちょうど世界がエイズに関心のあった時代で、社会派映画の傑作となりました。特にトム・ハンクスの熱演は絶賛され、アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。当時としては非常にセンシティブなテーマを大衆映画として取り上げたのは、センセーショナルでした。

法廷での緊迫したやりとりと、アンドリューとジョーの関係が変化していく過程が感動的です。お互いに偏見や恐れを抱えながらも、共に戦う中で人間的な絆が生まれる様子は深い感動を与えます。特にアンドリューがオペラ音楽に身を委ねるシーンは、人間の尊厳を強く訴える名場面です。

この映画は「恐れや偏見を乗り越えて、人間の尊厳を認め合うことの大切さ」を教えてくれます。病気や性的指向による差別の不当性を訴え、すべての人間が平等に扱われるべきだというメッセージなのです。

戯夢人生

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0891)

監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)

143分/台湾
原題または英題:戯夢人生 The Puppetmaster
配給:フランス映画社

実在した人形劇師リー・ティエンルー(李天禄)の人生を描いています。舞台は日本統治時代から戦後にかけての台湾で、彼が生きた時代は激しい政治的変化に翻弄されました。リー・ティエンルーは布袋劇(台湾の伝統的な手人形劇)の名人として活動しながら、植民地支配、戦争、政治的混乱という困難な時代を生き抜きました。個人の人生を通して台湾の近代史全体を映し出す重厚な作品で、ドキュメンタリーと劇映画の手法を組み合わせた独特なスタイルが特徴的です。

批評家たちは「詩的で視覚的に圧倒される歴史叙事詩」「個人の記憶を通して国家の歴史を描いた傑作」と絶賛しました。

ドキュメンタリーと劇映画の境界を越えた独創的な表現手法が印象的です。リー・ティエンルー本人のナレーションや証言を交えながら、当時の生活を再現した映像が静かに流れ、観客はまるで歴史の証人になったような感覚を味わえます。さらに、自然光を活かした長回しと美しい映像も魅力です。

個人の人生は常に時代の歴史と深くつながっていることを考えさせられます。

リー・ティエンルーの体験談は単なる一芸術家の物語を超えて、台湾という土地が抱えた苦悩と誇りを浮かび上がらせています。

ショート・カッツ

画像引用元:映画.com

(NO.0892)

監督:ロバート・アルトマン

189分/アメリカ
原題または英題:Short Cuts
配給:日本ヘラルド映画

アメリカの作家レイモンド・カーヴァーの短編小説をもとにした作品です。舞台はロサンゼルスで、医者、警察官、芸術家、主婦、ミュージシャンなど様々な職業や背景を持つ22人の男女が登場します。彼らは最初は全く無関係な人々ですが、日常生活の中でのちょっとした出来事や偶然の出会いによって、複雑に絡み合っていきます。それぞれの人生の喜びや悲しみ、秘密が少しずつ明かされ、一つの大きな物語として響き合う構成になっています。

ヴェネツィア国際映画祭では最高賞の金獅子賞を受賞し、その野心的な構成と現代社会への鋭い洞察力が高く評価されました。ただし登場人物が多く、話も複雑で難易度がやや高め。感覚で鑑賞してみましょう。

複数の物語を同時に進行させる手法が印象的です。日常的な会話や些細な出来事が積み重なることで、個々の人生の孤独や不安、人と人とのつながりの不確かさが浮かび上がってきます。

人生は無数の小さな出来事でできており、それらが予期しない形で他の人とつながっていることでしょうか。

人の行動や選択が思わぬところで他人に影響を与えたり、その時の責任について考えさせるなど、現代社会の人間関係を見つめ直す作品ともいえます。

シンドラーのリスト

画像引用元:映画.com

(NO.0893)

監督:スティーヴン・スピルバーグ

195分/アメリカ
原題または英題:Schindler’s List
配給:UIP

第二次世界大戦中に実際に起こった出来事をもとにした歴史ドラマです。舞台は戦時下のポーランドで、ドイツ人実業家オスカー・シンドラーが主人公です。最初の彼は利益だけを考えて、安い労働力としてユダヤ人を工場で働かせていました。しかし、ナチスがユダヤ人を迫害し殺害していく現実を目の当たりにするうちに、彼の心は変化していきます。最終的に1200人以上のユダヤ人を強制収容所から救い出し、彼らの命を守り抜きました。白黒映像で撮影され、戦争の残酷さと人間の良心を深く描いた作品です。

批評家たちは「スピルバーグ監督の最高傑作」「すべての人が観るべき歴史的名作」とこぞって絶賛しました。アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む7部門を受賞。

公開から30年近く経った現在でも、海外では学校の授業で上映されるなど、普遍的な価値を持つ作品として愛され続けています。

史実を忠実に再現しながら、映画ならではの象徴的な表現を効果的に使っている点が印象的です。基本的に白黒映像ですが、「赤いコートを着た少女」が登場するシーンなど、一部にカラーを使った演出が観客の心に強く残ります。また、シンドラーが最後に涙を流しながら語る場面は、人間の良心と後悔を深く表現した名シーンです。

どんなに絶望的な状況でも、一人の人間が他の人のために行動することで多くの命を救えること。権力者の心境を本当にうまく描かれていました。

シンドラーの心の変化は、人間の善意がいかに大きな力を持つかを示しており、現在と未来を生きる私たちへの重要なメッセージも多く含んでいます。

トリコロール/青の愛

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0894)

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ

99分/フランス・ポーランド・スイス合作
原題または英題:Trois couleurs: Bleu
配給:KUZUIエンタープライズ

「トリコロール」三部作の第一作です。

「トリコロール三部作」とは、監督クシシュトフ・キェシロフスキがフランス国旗(三色旗)に着想を得て撮った三本の連作のこと。
『トリコロール/青の愛(Blue)』『白の愛(White)』『赤の愛(Red)』の3作で、フランス革命の標語「自由・平等・友愛」をそれぞれのテーマに据えた“ゆるくつながる独立作品集。登場人物やモチーフが響き合い、最後に関係が交差します。

本作は「自由」を扱っています。主人公のジュリーは、有名な作曲家の妻でしたが、交通事故で夫と幼い娘を同時に失ってしまいます。深い悲しみから逃れるため、彼女は過去の全てを捨てて人間関係を断ち、感情を押し殺して一人で生きようとします。しかし、周りの人々の温かさや夫が残した未完成の音楽を通して、徐々に新しい生き方を見つけていく物語です。

ヴェネツィア国際映画祭では最高賞の金獅子賞と女優賞をダブル受賞し、キェシロフスキ監督の国際的な評価を決定づけた重要な作品となりました。抽象的で内省的な内容でもありますが、芸術性の高さは揺るぎないものです。

青色を基調とした美しい映像と音楽の力が印象的です。青いフィルターや光の演出がジュリーの心の状態を表現し、夫の未完成の楽曲が物語を優しく導いています。感情を抑えようとしながらも、無意識のうちに人や音楽に惹かれていくジュリーの心の動きが、観客に深い余韻を残します。

本当の自由とは一人になることではなく、他の人とのつながりを受け入れることが大事だなと、欧州の映画でも同じことを言っています。

大きな喪失を経験した後の心の再生を描いており、心に深く響きます。

さらば、わが愛/覇王別姫

画像引用元:映画.com

(NO.0895)

監督:陳凱歌(チョン・カイコー)

172分/中国・香港・台湾合作
原題または英題:覇王別姫 Farewell My Concubine
配給:KADOKAWA

舞台は中国の伝統芸能である京劇の世界で、幼い頃から厳しい修行を一緒に受けた程蝶衣(レスリー・チャン)と段小樓(チャン・フォンイー)の人生を描く歴史ドラマです。二人は京劇の名優として成長し、舞台では「覇王別姫」という演目で蝶衣が妃、小樓が王様を演じる名コンビとなります。しかし、20世紀の中国は戦争や文化大革命など激しい政治的変化に見舞われ、小樓の妻・菊仙(コン・リー)を含む三人の関係も時代の荒波に翻弄されていきます。

カンヌ国際映画祭では中国映画として初めてパルム・ドール(最高賞)を受賞しました。「芸術、愛、政治が複雑に絡み合う壮麗な人間ドラマ」と各方面で絶賛され、レスリー・チャンの繊細で悲劇的な演技は世界中で高く評価され、彼の代表作として語り継がれています。

京劇の華麗で美しい舞台と、その裏側にある過酷な現実との対比が印象的です。舞台の美しさとは対照的に、現実世界では戦争や政治的迫害に苦しめられる芸術家たちの姿が描かれています。

蝶衣、小樓、菊仙の三角関係は、愛と嫉妬、友情と裏切りが複雑に絡み合った濃密な人間ドラマとして観客を強く引きつけます。

芸術と愛は、時代がどんなに残酷でも、人間の誇りと魂を支え続けます。個人の人生を通して中国近代史の光と影を映し出した、心を深く揺さぶる壮大な名作映画です。

恋はデジャ・ブ

画像引用元:映画.com

(NO.0896)

監督:ハロルド・レイミス

101分/アメリカ
原題または英題:Groundhog Day
配給:コロンビア映画=コロンビア トライスター映画

時間ループを扱った映画の代表作です。主人公はシニカルで自己中心的な気象予報士フィルです。彼は取材でアメリカの小さな町を訪れますが、なぜか「2月2日」という同じ一日を何度も繰り返すことになってしまいます。最初は困惑したフィルでしたが、どんなことをしても翌日にリセットされることを利用して、好き勝手に振る舞います。しかし次第に虚しさを感じ、繰り返しの中で人を助けたり自分を磨いたりすることで、周囲の人々への思いやりや愛を学んでいく物語です。

単なるロマンティック・コメディを超えた、哲学的で普遍的なメッセージを持つ作品でもあります。公開当初はライトなコメディとして受け取られましたが、近年では人生について深く考えさせる寓話として再評価が進んでおり、多くの後続作品に影響を与えており、コメディ映画の代表作でもあります。

同じ日の繰り返しを利用したコミカルなシーンで笑いを誘いながら、永遠に続く孤独や退屈の中での心の成長過程が観客に深い感動を与えます。特に、町の人々と心を通わせていく姿は、日常の中にある人生の価値を気づかせてくれます。

同じような毎日でも、自分の心構えを変えれば世界は変わるという気持ちを持ちましょう。

退屈に見える日常でも、学びや優しさを積み重ねることで新しい意味と価値を見出すことができることを、笑いと感動を通して気づかせてくれます。

ピアノ・レッスン

画像引用元:映画.com

(NO.0897)

監督:ジェーン・カンピオン

121分/R15+/オーストラリア・ニュージーランド・フランス合作
原題または英題:The Piano
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

愛と自由を描くドラマで、19世紀半ばのニュージーランドが舞台。スコットランドから幼い娘アンナとともにやってきたエイダが主人公です。彼女は何らかの理由で声を出すことができず、唯一の自己表現の手段は愛用のピアノでした。望まない結婚でニュージーランドに来た彼女でしたが、夫の農園で働くバインズと出会います。ピアノを通じて二人は心を通わせ、やがて情熱的な関係に発展していきます。これが彼女にとって自分自身の自由と愛を取り戻すきっかけとなります。

カンヌ国際映画祭では最高賞のパルム・ドールを受賞し、アカデミー賞でもホリー・ハンターが主演女優賞、当時11歳のアンナ・パキンが助演女優賞を受賞しました。映像と音楽が織りなす詩的な美しさや、女性の欲望と主体性を真摯に描いた革新的な作品です。

ピアノを通じて表現される愛と感情の葛藤が印象的です。海辺に置かれたピアノの象徴的な映像や、マイケル・ナイマンが作曲した美しいピアノ音楽が、エイダの心の動きを鮮やかに表現しています。

本当の自由とは、自分の気持ちを認めて、自分で選択することから始まる!身に沁みます。

困難な状況に置かれても、人は自分らしく生きる道を見つけることができることを、感情豊かに描いた作品です。

ウェディング・バンケット

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0898)

監督:アン・リー

109分/台湾・アメリカ合作
原題または英題:喜宴 The Wedding Banquet
配給:日本ヘラルド映画

ニューヨークで不動産業を営み成功している台湾出身の青年ウェイ=トンが主人公です。彼は実は同性愛者で、アメリカ人男性のサイモンと恋人同士ですが、台湾の両親にはそのことを打ち明けられずにいます。両親から結婚を急かされた彼は、中国人の女性友人ウェイウェイと偽装結婚することを計画します。しかし、両親がアメリカまで結婚式に参加しに来ることになり、嘘を隠すために盛大な結婚披露宴を開くことになります。その結果、家族、恋人、友人を巻き込んだ複雑な状況が生まれ、様々な葛藤と混乱が起こります。

家族の絆と文化的価値観をユーモラスかつ温かく描かれており、さらにセクシュアリティという敏感なテーマを扱いながらも、普遍的な家族の物語として成立させました。家族ドラマの傑作映画です。

東洋と西洋、伝統と現代、親世代と子世代の価値観の違いを、笑いと感動を交えて自然に描いた点が魅力的です。特に結婚披露宴での大混乱のシーンは、コメディとしての面白さと人間関係の複雑さが同時に表現された名場面です。

家族や愛情に完璧な答えはなく、お互いの理解と歩み寄りの中で築かれていくものなのです。

文化や世代の違いを乗り越えて人がつながるために必要な誠実さと柔軟性の大切さを示した作品です。

グレン・グールドをめぐる32章

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0899)

監督:フランソワ・ジラール

93分/カナダ
原題または英題:Thirty Two Short Films about Glenn Gould
配給:アップリンク

天才ピアニスト・グレン・グールドを描いた伝記映画です。グールドは20世紀を代表するカナダ出身のクラシック・ピアニストで、特にバッハの演奏で世界的に有名になりました。しかし、人前で演奏することを嫌い、32歳という若さで演奏会活動をやめて、スタジオでの録音やラジオ番組制作に専念した変わった音楽家でした。この映画は彼の人生と音楽を「32の短い章」に分けて、様々な手法(実際の映像、アニメーション、インタビューなど)を使って多角的に描いた独創的な作品です。

従来の伝記映画とは全く違う実験的な構成が、グールドという複雑な人物の本質に迫っている作品です。さらに、音楽と映像の詩的な融合は記憶に残ります。断片的な構成ですが、それがグールドの掴みどころのない個性を表現しているとも言えます。

グールドの実際の演奏を聴かせるだけでなく、彼の孤独感、奇妙な行動、音楽に対する哲学的な考え方を多様な表現方法で見せている点が魅力的です。「なぜ人前での演奏をやめたのか」「完璧主義的な録音への取り組み」などのエピソードが、芸術家の孤独と創造の関係を浮き彫りにしています。

天才の創造力は孤独と妥協しない姿勢から生まれてきます。自分らしく生きることの難しさと美しさを、音楽を通して問いかけます。

ジュラシック・パーク

画像引用元:映画.com

(NO.0900)

監督:スティーヴン・スピルバーグ

127分/アメリカ
原題または英題:Jurassic Park
配給:UIP

よく知られているSFアドベンチャー映画です。億万長者のハモンドが、遺伝子工学技術を使って恐竜を現代に復活させ、中米の孤島に恐竜のテーマパークを建設します。オープン前のテストのため、古生物学者のグラント博士、植物学者のサトラー博士、数学者のマルコム博士、そしてハモンドの孫である二人の子どもたちが島に招かれます。しかし、コンピューターシステムの故障により安全装置が解除され、恐竜たちが檻から脱出してしまいます。島は一転して命がけのサバイバル空間となり、人間たちは恐竜から逃れながら島からの脱出を試みます。

当時としては革新的なCGI技術とアニマトロニクス(動くロボット)を組み合わせた恐竜の描写は映画界に革命をもたらし、世界中で記録的な興行収入を達成しました。アカデミー賞では視覚効果賞、音響効果編集賞、音響賞の3部門を受賞し、技術面での革新性が高く評価されています。

何といっても恐竜たちの圧倒的な存在感が最大の魅力です。ブラキオサウルスが初めて姿を現すシーンの感動、ティラノサウルスの恐怖的な迫力、そして知能の高いヴェロキラプトルとの知恵比べなど、それぞれの恐竜が持つ特徴を活かした演出が見事です。スピルバーグ監督ならではの緊張感とユーモアのバランスも絶妙で、最後まで飽きさせません。

「人間の科学技術には限界があり、自然を完全に支配することはできない」というようなメッセージを感じて身に沁みます。

便利で素晴らしい技術も、それを扱う人間の傲慢さや油断によって災いをもたらす可能性があることを考えさせられる、時代を超えた名作です。

エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0901)

監督:マーティン・スコセッシ

139分/アメリカ
原題または英題:The Age of Innocence
配給:コロンビア トライスター映画

イーディス・ウォートンの小説を映画化した作品です。舞台は19世紀末のニューヨークの上流社会で、厳しい社会のルールや体面が重視される時代です。主人公のニューランドは名家の弁護士で、同じく上流階級出身のメイと婚約しています。しかし、メイのいとこで離婚歴のある伯爵夫人エレンに出会い、深く心を奪われてしまいます。愛する人への想いと社会の期待の間で葛藤するニューランドの苦悩を、美しい映像で描いた作品です。

スコセッシ監督の暴力的な作品とは全く異なる、抑制された情熱の表現。そして豪華絢爛な美術と衣装で当時の社会の虚飾と抑圧を見事に描きました。

まるで絵画のように美しく構築された映像と、言葉にできない愛の緊張感が印象的です。当時の豪華な衣装や調度品、社交界の華やかさが詳細に再現されています。視線や仕草、沈黙の中に隠された激しい感情を、俳優陣が見事に表現しており、特に主演の三人の抑えた演技が深い余韻を残します。

愛することと正しく生きることが必ずしも一致するわけではありません。人生は複雑です。社会の期待と個人の感情の間での葛藤は現代に通じるテーマで、人間の弱さと美しさが繊細に描かれています。

1994年

1994年を象徴するイメージ画像です

ライオン・キング

画像引用元:映画.com

(NO.0902)

監督:ロジャー・アラーズ、ロブ・ミンコフ

88分/G/アメリカ
原題または英題:Lion King
配給:ディズニー

ディズニーが制作したアニメーション映画の名作です。

アフリカのサバンナを舞台に、ライオンの王子シンバの成長物語を描いています。シンバは王である父ムファサから王国を受け継ぐ予定でしたが、邪悪な叔父スカーの陰謀により父を失い、その責任を感じて故郷から逃げ出してしまいます。放浪の途中で出会ったミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンバァと一緒に、悩みを忘れて気楽に暮らしていましたが、幼なじみのナラとの再会をきっかけに自分の使命を思い出し、スカーに支配された王国を取り戻すために戦いを挑みます。

ディズニーアニメーションの代表作として世界中で愛されています。「壮大な物語」「音楽と映像の素晴らしい融合」「子どもから大人まで楽しめる深いテーマ」と世界で絶賛しました。

アカデミー賞では歌曲賞と作曲賞を受賞し、エルトン・ジョンが歌った「愛を感じて」やハンス・ジマーが作曲した音楽は現在でも名曲として親しまれています。

圧倒的に美しいアニメーション映像と心に響く音楽が最大の魅力です。特に冒頭の「サークル・オブ・ライフ」のシーンは映画史に残る名場面で、壮大な自然とそこに生きる動物たちの生命力が見事に表現されています。また、コミカルなキャラクターたちと真剣な物語のバランスも絶妙で、何度観ても新しい発見があります。

シンバが成長して真の王になっていく姿は、どの世代の人にも勇気と希望を与えてくれる、人生の教訓に満ちたディズニーの不朽の名作で、今見ても涙なしでは語れません!

甘い毒

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0903)

監督:ジョン・ダール

110分/G/アメリカ
原題または英題:The Last Seduction
配給:オクトーバー・フィルムズ

1990年代のフィルム・ノワール(暗い犯罪映画)の傑作サスペンス映画です。主人公のブリジットは、非常に頭が良く冷酷な女性です。夫から大金を奪って小さな田舎町に逃げ込んだ彼女は、そこで地元の純朴な青年マイクと出会います。ブリジットはマイクを巧妙に誘惑し、自分の都合の良いように操りながら、さらに大きな計画を進めていきます。伝統的な「宿命の女」を現代風にアレンジした、道徳を無視して生きる女性の物語です。

リンダ・フィオレンティーノの圧倒的な存在感が強烈です。彼女の演技はニューヨーク映画批評家協会賞の主演女優賞を受賞するほど高く評価されましたが、この作品が最初にテレビで放送されたため、アカデミー賞の対象外となったことで有名です。

普通の映画なら最後に罰を受けるはずの悪役が、最後まで勝ち続けるという珍しい展開が印象的です。道徳的に問題のあるヒロインが知恵と魅力を武器に男性たちを操る様子は、観客に強烈なインパクトを与えます。乾いた映像美とシャープな脚本も、作品の魅力を高めています。

知恵と戦略を持った人間は、時として善悪の枠を超えて生き抜くことがあることを学びましょう。ただそれが正しいかどうかはまた別問題で、観客の倫理観を揺さぶる挑発的な作品でもあります。人間の複雑さと社会の現実について考えることになるでしょう。

野性の葦

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0904)

監督:アンドレ・テシネ

114分/フランス
原題または英題:Les Roseaux sauvages
配給:フランス映画社

「やせいのあし」と読みます。

舞台は1960年代初頭のフランスの田舎町で、アルジェリア戦争が終わろうとしている時代です。寄宿学校に通う4人の若者が主人公で、内気で繊細なフランソワ、彼に恋心を抱く女子学生マイテ、自由奔放なセルジュ、そして転校生のアンリです。彼らはそれぞれ異なる恋愛感情や政治的な考えを持ちながら、戦争という社会情勢に翻弄されつつ成長していきます。青春期特有の心の揺れ動きと、激動する社会情勢が重なり合った繊細な群像劇として描かれています。

フランス映画の青春ドラマの傑作でもあります。青春映画に社会的背景を巧妙に織り込んだ知的で繊細な感じの映画で、個人のアイデンティティ形成と歴史の交差を詩的に描きました。

若者たちの複雑な心理状態を丁寧に描いた繊細な演出と、美しいフランスの田園風景が印象的です。恋愛や性への目覚めといった個人的な体験が、アルジェリア戦争という政治的な背景と重ね合わせることで、小さな個人的悩みが大きな社会問題の縮図として浮かび上がります。また、若い俳優たちの自然で等身大の演技が、青春期の不安と希望を鮮やかに表現しています。

人は不安定で混乱した状況の中でこそ、本当の自分を見つけていきます。青春期の揺れ動く気持ちを描きながら、時代の大きな流れに影響される人間の姿を見つめています。

クラム

画像引用元:映画.com

(NO.0905)

監督:テリー・ツワイゴフ

120分/PG12/アメリカ
原題または英題:Crumb
配給:コピアポア・フィルム、オープンセサミ、Lesfugitives

主人公は実在のアメリカ人漫画家ロバート・クラムで、1960~70年代に「アンダーグラウンド・コミック」というジャンルで活躍した人物です。アンダーグラウンド・コミックとは、従来の健全な漫画とは正反対の、風刺的で過激な内容の漫画のことです。この映画では、クラムの創作活動だけでなく、彼の複雑な性格や人間関係、さらに精神的な問題を抱えた兄弟たちの姿も赤裸々に描かれるドキュメンタリー作品です。

芸術家の才能と、その背景にある家族の闇を同時に映し出しました。

ドキュメンタリー映画の傑作のひとつ。芸術家の本質を深く掘り下げるだけでなく、家族の暗部を映すことでより強烈な印象になりました。サンダンス映画祭をはじめ多くの映画祭で高く評価され、数々の批評家賞を受賞しています。

クラム本人の風刺的なユーモアと、兄弟たちの正直で痛々しい証言が印象的です。彼の漫画作品に込められたエネルギーが、実際の内面や家庭環境とどう結びついているかが、映像を通して立体的に伝わってきます。

芸術や創作は、その人の生い立ちや悩みと深く結びついています。作品の価値と作者の人格は別物として考える視点や、家族や環境が人の才能に与える影響についても考えさせられる、確かなメッセージ性があります。

乙女の祈り

画像引用元:映画.com

(NO.0906)

監督:ピーター・ジャクソン

100分/イギリス・ドイツ・ニュージーランド
原題または英題:Heavenly Creatures
配給:松竹富士

1950年代にニュージーランドで実際に起きた殺人事件をもとにしている心理ドラマです。主人公は二人の女子高生で、内気で孤独なポーリーンと、自由で明るい転校生ジュリエットです。二人は強く惹かれ合い、「第四世界」という空想の王国を共有するほど親密な関係になります。しかし、あまりにも密接な関係を心配した両親たちが二人を引き離そうとしたことで、彼女たちは現実と幻想の区別がつかなくなり、最終的に悲劇的な事件を起こしてしまいます。

心理サスペンスの傑作です。ジャクソン監督の映像的創造力が、少女たちの幻想世界と狂気を鮮烈に表現しています。後に『タイタニック』などで世界的スターになるケイト・ウィンスレットのデビュー作でもあります。

現実世界と少女たちの幻想世界が交錯する独特な映像表現が印象的です。彼女たちが想像する「第四世界」が、粘土人形を使ったファンタジーや美しい映像で描かれ、二人の心の高揚と孤立感が視覚的に表現されています。また、1950年代の保守的な社会背景も印象的ですね。

あまりに強い依存関係は、時として危険な結果を招く可能性があるということでしょうか?

友情や愛情は人生を豊かにしますが、現実とのバランスを失うと破滅的な方向に進んでしまう危険性があることを、深く考えさせてくれます。

パルプ・フィクション

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(NO.0907)

監督:クエンティン・タランティーノ

154分/アメリカ
原題または英題:Pulp Fiction
配給:松竹富士

この映画の最大の特徴は、物語の時間順序をバラバラにして構成していることです。ギャングのヴィンセントとジュールス、ボクサーのブッチ、ギャングのボスの妻ミアなど、複数の登場人物の物語が複雑に絡み合いながら展開されます。日常的な会話と突然起こる暴力的な出来事が混ざり合った独特のリズムが、従来の映画にはない新鮮さを生み出しています。

カンヌ国際映画祭では最高賞のパルム・ドールを受賞し、アカデミー賞では脚本賞を獲得しました。批評家たちは「会話と構成で映画の新しい可能性を示した作品」「アメリカ映画の作り方を変えた」と絶賛しています。暴力的な描写やブラックユーモアなどは映画史にも残り、タランティーノ監督は日本でも大勢の心を掴みました。

テンポの良い会話と印象的なシーンの数々が魅力的です。レストランでの何気ない会話、緊迫した蘇生シーン、トラボルタとサーマンの有名なダンスシーンなど、どれも強烈な印象を残し、後の映画や文化に大きな影響を与えました。また、過去の映画や音楽への様々な引用も織り込まれており、映画ファンにとって発見の楽しみがあります。

人生は予測できず、小さな選択や偶然が運命を大きく変えることがあるのです。登場人物たちが何気ない会話や行動の中で人生の転機を迎える姿から、日常の中に潜むドラマの大切さを学べる、映画の可能性を広げた作品です。

トリコロール/赤の愛

画像引用元:映画.com

(NO.0908)

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ

96分/フランス・ポーランド・スイス
原題または英題:Trois couleurs: Rouge
配給:KUZUIエンタープライズ

「トリコロール」三部作の最終作品です。この三部作は、フランス革命の理念「自由・平等・博愛」をテーマにしており、本作は「博愛」を扱っています。主人公は若いファッションモデルのヴァランティーヌです。ある日、彼女は車で犬を轢いてしまい、その犬の飼い主である退職した判事ケルジュと出会います。この判事は他人の電話を盗聴するという奇妙な趣味を持っていましたが、ヴァランティーヌは最初反発しながらも、次第に孤独な彼の心に寄り添うようになり、人と人とのつながりについて深く考えるようになります。

三部作の中でも特に高く評価されているのはこの作品でしょうか。映像と音楽の完璧な調和、人間同士のつながりの不思議さが巧みに描かれています。キェシロフスキ監督の集大成的作品として国際的に称賛されています。

赤色を基調とした美しい映像が印象的です。判事の家に差し込む赤い光やヴァランティーヌの赤い服など、愛や絆を象徴する赤が効果的に使われています。また、偶然の出会いから生まれる人間関係の不思議さや、他人を思いやることの意味を静かに問いかける物語展開も魅力的です。

人は一人では生きられず、他の人とのつながりによって救われます。そんな映画は数多いのですが、この映画も同じようなメッセージを持っています。日本での現実社会において身に沁みる内容です。

小さな偶然や出会いが思いもよらない絆を生み出すことがあり、人と人が寄り添うことで生まれる希望の大切さを詩的に描いた、三部作の美しい完結編です。

ナチュラル・ボーン・キラーズ

画像引用元:映画.com

(NO.0909)

監督:オリバー・ストーン

119分/アメリカ
原題または英題:Natural Born Killers
配給:ワーナー・ブラザース映画

社会風刺映画の傑作で、主人公は若いカップルのミッキーとマロリーで、二人は全米各地で無差別殺人を繰り返しながら逃亡生活を送っています。驚くべきことに、彼らは凶悪な大量殺人犯であるにもかかわらず、テレビや新聞などのメディアによってまるでスーパースターのように扱われ、多くの人々が彼らに憧れを抱くようになります。この映画は、暴力をエンターテインメントとして消費するアメリカ社会とメディアの問題を鋭く批判した作品です。

海外の批評家はこぞって批判しました。「過激すぎて不快」「暴力的すぎる」など。しかし実験的で挑発的な映像手法については革新的でもあり、1990年代を代表する問題作として映画史に燦然と輝きます。

カラフルでポップな映像の中に残酷な暴力シーンが組み込まれた、衝撃的な映像表現が特徴的です。アニメーション、モノクロ映像、ジャンプカットなど様々な手法を使った実験的な演出が観客に強烈な印象を与えます。また、ロバート・ダウニー・Jr.が演じるテレビジャーナリストなど、メディアの狂騒を表現するキャラクターも印象的です。

この映画は「暴力を批判しているつもりでも、それを面白がって見てしまう自分たちの危険性」について考えさせてくれます。メディアがどのように暴力を商品化し、私たちがそれをどう消費しているかを問いかける作品です。

現代日本でも、まるで隣り合わせのように身近な、かつ重要なメッセージを持った作品です。

ミュリエルの結婚

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0910)

監督:P・J・ホーガン

114分/オーストラリア
原題または英題:Muriel’s Wedding
配給:巴里映画

主人公のミュリエルは、オーストラリアの田舎町で暮らす冴えない女性です。家族からは邪魔者扱いされ、友人からも軽く見られている彼女の唯一の夢は「結婚して幸せになること」でした。しかし、その夢は現実とはかけ離れたものでした。そんなミュリエルが親友ロンダと出会い、一緒に大都市シドニーに出ることで人生が変わり始めます。恋愛や友情を経験しながら、彼女は「本当の幸せとは何か」「自分らしく生きるとはどういうことか」を学んでいきます。

オーストラリア映画ですが世界的に名声も高く、楽しいコメディでありながら、家族関係や自己肯定感という深いテーマを扱っています。

ABBAの名曲に彩られた明るくポップな雰囲気と、ミュリエルの不器用だけれど一生懸命な成長物語が魅力的です。虚勢を張りながらも素直に生きようとする彼女の姿は多くの人の共感を呼び、最終的に自分の足で立って歩む決意をする場面は大きな感動を与えます。

「本当の幸せは他人の承認や結婚という形にあるのではなく、自分で自分を受け入れることから始まる」ことを教えてくれます。理想と現実のギャップに悩むすべての人に、ありのままの自分を受け入れて、自分らしく生きる勇気を与えてくれる作品です。

プリシラ

画像引用元:映画.com

(NO.0911)

監督:ステファン・エリオット

103分/オーストラリア
原題または英題:The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert

配給:アスミック・エース

主人公は3人のドラァグクイーン(男性が女性の格好をして歌やダンスのパフォーマンスをする人たち)で、ティック、ベル、アダムです。彼らは「プリシラ」と名付けたバスに乗って、オーストラリアの広大な砂漠を横断し、田舎町でのショーに向かうというロードムービーです。旅の途中で偏見や差別に直面しながらも、華やかな衣装とパフォーマンスを通じて、お互いを支え合い、自分らしく生きることの大切さを学んでいきます。

LGBTQをテーマにした映画の先駆けとも言われます。個性的でありながら温かい友情や、社会的マイノリティをユーモラスで前向きに描いた作品でもあります。色鮮やかで独創的な衣装は映画史に残る名シーンです。

圧倒的に華やかで奇抜な舞台衣装と、雄大なオーストラリアの砂漠との対比が印象的です。派手なパフォーマンスシーンは楽しくユーモラスでありながら、現実社会での差別や孤独といった深刻な問題も浮き彫りにしています。

自分らしさを恐れずに表現し、仲間と共に支え合って生きること、素敵じゃないですか。笑いと音楽に満ちながらも、マイノリティが抱える困難と強さを鮮やかに描いた作品です。

フープ・ドリームス

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0912)

監督:スティーヴ・ジェームズ

169分/アメリカ
原題または英題:Hoop Dreams
配給:シネカノン

シカゴの貧しい地区に住む二人の少年、ウィリアムとアーサーを約5年間にわたって追いかけたというドキュメンタリー映画です。二人はバスケットボールの才能を認められ、将来NBA選手になることを夢見て、奨学金をもらって名門高校に進学します。しかし、家庭の経済的な困窮、学業の困難、ケガ、そして人種差別など、様々な現実的な問題が彼らの前に立ちはだかります。夢を追い続ける中で、彼らがどのような困難と向き合い、どう成長していくかを丁寧に記録した作品です。

アメリカ社会の現実を映し出した優れた心がえぐられるドキュメンタリーで、スポーツを通して、夢と社会格差を描いた深い人間ドラマになっています。

単純なスポーツ映画ではなく、「アメリカンドリーム」の明るい面と厳しい現実の両方を浮き彫りにしている点が印象的です。少年たちが夢に向かって努力する姿は感動的ですが、同時に教育格差や社会の不平等も容赦なく描かれるため、観客は強い現実感を突きつけられます。また、家族の愛情や地域社会のつながりも温かく描かれています。

夢を追う過程そのものに価値があるんですよ!

目標が達成できるかどうかよりも、その挑戦の中で直面する困難や人との関わりが、人間としての成長や生き方を決めていくことを示しています。夢を追うすべての人に、現実の厳しさと希望の両方を伝えています。

サタンタンゴ

画像引用元:映画.com

(NO.0913)

監督:タル・ベーラ

438分/ハンガリー・ドイツ・スイス
原題または英題:Satantango
配給:ビターズ・エンド

上映時間が7時間18分(438分)という驚くほど長い映画です。舞台は社会主義体制が終わった後のハンガリーの寂れた農村で、共同農場の失敗により村人たちは絶望的な生活を送っています。そこに、死んだと思われていた謎の男イリミアーシュが突然現れ、村人たちは彼に希望を託します。しかし、彼の言葉に翻弄された人々はさらなる混乱に陥っていきます。白黒映像で、非常にゆっくりとした長回しの撮影で作られた、閉塞した社会と人間の欲望を重厚に描いた作品です。

海外の映画評価サイトで100%という完璧な評価を獲得し、芸術映画の最高峰として世界中の映画批評家から絶賛されています。「映画史に残る究極の長編作品」「人間存在と社会の闇を描いた哲学的な叙事詩」と称されました。

特に冒頭の牛の群れがゆっくりと歩くシーンは映画史に残る名場面です。でもちゃんと見るのは大変でしたが(笑)。

時間そのものを体験させるような独特な映像表現が特徴的です。長い時間をかけてワンカット(カメラを止めずに撮影)で映される歩行シーンや、雨音、沈黙に満ちた空気感が、単なる物語を超えて「時間と存在を体験する」感覚を観客に与えます。

希望や救いを求める人間が、時としてその欲望によって破滅に導かれるという厳しい現実をつきつけます。

人生の不確かさや人間の弱さを、静かでありながら圧倒的な重みをもって示した、深く考えさせられる作品です。

クラークス

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0914)

監督:ケヴィン・スミス

93分/アメリカ
原題または英題:Clerks.
配給:アップリンク

わずか2万7千ドルという超低予算で作られたインディペンデント映画の代表作です。物語はニュージャージー州のコンビニで働く青年ダンテと、その隣のレンタルビデオ店の店員ランドールのたった一日を描いています。特別な事件が起こるわけではなく、客との些細なやりとり、退屈な会話、くだらない冗談、恋愛の悩みや将来への不安などが淡々と続きます。白黒映像で撮影されたこの映画は、若者たちの停滞した日常と苛立ちをリアルに表現し、多くの観客の共感を呼びました。

1990年代のインディペンデント映画の傑作とされています。低予算映画の革命的作品で、ユーモアと会話だけでこんなにも見入ってしまうのはなぜでしょうか?

サンダンス映画祭での成功がきっかけで全国公開が決まり、ケヴィン・スミス監督は一躍インディーズ映画界の注目株となりました。過激な会話や下品なユーモアについては賛否両論ありましたが、それも作品の個性として支持されています。

何も特別なことが起こらない平凡な日常を、笑いと共に切り取った点が魅力的です。映画やポップカルチャーについての会話は、現在のオタク文化やSNSでの会話スタイルの先駆けとも言えます。また、固定カメラを多用したシンプルな撮影方法が、退屈な日常の雰囲気を独特なものにしています。

平凡な日常にも価値があり、そこにも人生の真実が隠れているということです。何者でもない若者たちの停滞と不安をユーモラスに描きながら、観客に「自分の人生をどう変えていくか」を考えさせてくれるでしょう。

フォー・ウェディング

画像引用元:映画.com

(NO.0915)

監督:マイク・ニューウェル

117分/イギリス
原題または英題:Four Weddings and a Funeral
配給:東宝東和

主人公は結婚に対して消極的な独身男性チャールズで、彼が4つの結婚式と1つの葬式に参列する中で起こる恋愛模様を描いています。最初の結婚式でアメリカ人女性キャリーと出会い恋に落ちますが、彼女は既に別の男性と婚約していました。その後も様々な結婚式や葬式で再会を重ねながら、二人の関係は複雑にもつれていきます。人生の重要な節目である結婚式と葬式を舞台にして、愛の喜びや切なさをユーモラスに描いた心温まる作品です。

1990年代を代表するロマンティック・コメディとして愛されています。ユーモアと人間性が絶妙に絡み合った素晴らしい作品です。

アカデミー賞では作品賞にノミネートされ、ヒュー・グラントはこの作品で国際的なスター俳優としての地位を確立しました。観客に安心感と心地よい笑いを届ける作品です。

機知に富んだ会話とイギリスらしい上品なユーモアが魅力的です。チャールズとその仲間たちの友情や、コミカルで少し切ない恋愛関係が、華やかな結婚式という舞台で展開されます。特に葬式のシーンでは笑いだけでなく深い悲しみや愛情も表現され、作品全体に深みを加えています。

愛は思い通りにいかなくても、人生の大切な瞬間を美しく彩る力があることを教えてくれます。笑いと涙のバランスが絶妙で、愛することの不思議さと素晴らしさを伝えています。

フォレスト・ガンプ

画像引用元:映画.com

(NO.0916)

監督:ロバート・ゼメキス

142分/PG12/アメリカ
原題または英題:Forrest Gump
配給:シンカ

主人公のフォレスト・ガンプは知的障害を抱えていますが、とても純粋で誠実な心を持った男性です。彼は偶然や運命に導かれながら、ベトナム戦争やウォーターゲート事件など、アメリカの重要な歴史的出来事に数多く立ち会います。また、アップル社の株を早い時期に購入したり、卓球で中国との親善に貢献したりと、知らないうちに歴史を動かすような場面にも遭遇します。そんな中で、幼なじみの女性ジェニーへの変わらぬ愛を胸に、自分らしく人生を歩み続ける物語です。

1990年代を代表する名作として愛され続けおり、日本でもビジネスマンや実業家でも、この映画は本当よく見られている印象があります。

トム・ハンクスの演技は絶賛され、アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞を含む6部門を受賞しました。2年連続受賞なんですね。

主人公の名前の由来やキング牧師が登場しないなど、歴史の扱い方には賛否もありますが、フォレストというキャラクターの魅力と、人生について考えさせてくれる深いテーマ性は多くの人に支持されています。

フォレストの純粋な視点から描かれるアメリカの歴史が印象的です。当時最新のCG技術を使って、フォレストが実在の大統領や有名人と会話するシーンを自然に作り上げた映像は革新的でした。また、友情や家族の愛、ジェニーとの不器用でひたむきな恋愛関係が、観客の心を強く揺さぶります。

「人生は予測できないことばかりだけれど、誠実に生きることが大切」であることを教えてくれます。フォレストの姿から、成功や失敗にとらわれずに、自分らしく歩むことの価値を学ぶことができます。生涯に残る名セリフも多く、貴重な作品の一つであり続けています。

オリーブの林をぬけて

画像引用元:映画.com

(NO.0917)

監督:アッバス・キアロスタミ

103分/G/イラン
原題または英題:Zir-e derakhtan-e zeytoon
配給:ユーロスペース

「コケル三部作」の最終作です。イランで実際に起きた地震の被害を受けた村で、映画の撮影が行われています。その現場で働く青年ホセインは、同じく映画に出演している女性タヘレに恋をして、何度もプロポーズを続けます。しかし、家柄や社会的な身分の違いから彼女は彼の求婚を受け入れることができません。映画の撮影という「作り物」の世界と、村人たちの「現実」の生活が重なり合う中で、純粋な愛の形を静かに描いた作品です。

イラン映画の傑作として世界中の映画祭で絶賛されました。映画と現実が交差する独特な構造や、静かで詩的な映像の美しさは印象に残ります。特にラストシーンの長いカメラワークは、観客にいろいろな解釈を許しながら、愛と希望がどこに向かうのかを象徴的に示す映画史に残る名場面とされています。

映画制作という「作り物」と村人の生活という「現実」が巧妙に重なり合っている点が印象的です。観客は映画の中で映画を撮る人たちを見ながら、何が本当で何が演技なのかの境界線を揺さぶられます。また、美しいオリーブの木に囲まれた風景が、シンプルでありながら人間の暮らしを豊かに表現しています。

愛や真心は結果がどうなっても、人を生き生きとさせる力があることを伝えています。

断られても諦めずに気持ちを伝え続けるホセインの姿から、何かを信じて歩み続けることなど、静かな時間の流れの中に人生の真実を映し出しています。

コケル三部作(コケル=「友だちのうちはどこ?」の舞台になった村の名前)とは

  • 作品群:
    1. 『友だちのうちはどこ?』(1987)
    2. 『そして人生はつづく(Life, and Nothing More…)』(1992)
    3. 『オリーブの林をぬけて』(1994)
  • 特徴:
    ・いずれもイラン北部のコケル村を舞台に撮影。
    ・同じ土地や人々を異なる角度から描き、「現実と虚構の境界」 をゆるやかに横断していく。
    ・例えば『友だちのうちはどこ?』は少年の視点で描かれますが、『そして人生はつづく』はその映画を撮った監督が震災後に村を訪ねる物語、さらに『オリーブの林をぬけて』は『そして人生はつづく』の撮影現場を舞台にした物語、といったように入れ子構造になっています。
    → だから 「映画の中の映画の中の映画」 という多層構造が特徴。

ショーシャンクの空に

画像引用元:映画.com

(NO.0918)

監督:フランク・ダラボン

142分/G/アメリカ
原題または英題:The Shawshank Redemption
配給:カルチャヴィル

スティーヴン・キングの小説を映画化したヒューマンドラマの名作です。主人公のアンディは銀行員でしたが、妻とその愛人を殺害した罪で終身刑となり、ショーシャンク刑務所に収監されます。しかし彼は無実でした。刑務所で長年服役している囚人レッドと友情を育みながら、アンディは約20年間をかけて密かに脱獄の準備を進めます。絶望的な環境の中でも希望を失わず、最終的に奇跡的な脱獄を成功させる感動的な物語です。

現在では「史上最高の映画」ランキングで常に上位に位置する不朽の名作となっています。

評論家ではベスト映画にはまず出てこないのに、日本でも海外でも、一般の映画ブログなどでほとんどの人は上位にランキングにあげ、「好きな映画としてあげられるお決まりの映画」としてもよく知られています。逆に、「好きな映画でショーシャンクをあげるのはダサい」という風潮まで出てくる始末!?

アンディが長い年月をかけて築く知恵と忍耐力、そしてレッドとの深い友情が印象的です。刑務所内で音楽を流すシーンや図書館を充実させる場面など、小さな希望の光が感動を与えます。クライマックスの脱獄シーンと、その後のレッドの旅立ちは映画史に残る名場面です。

ほかにも印象的な場面も多く、高確率で何らかの印象深いシーンに出会えるでしょう。

この映画は「どんなに困難な状況でも希望を持ち続けることが、人を本当の意味で自由にする」ことを教えてくれます。苦しい現実の中で生き抜く力と、未来を信じる心の大切さを深く感じさせてくれる、時代を超えて愛される傑作です。

たくさんのことを教えてくれますので、わたしも強くおすすめする作品です。

親愛なる日記

画像引用元:映画.com

(NO.0919)

監督:ナンニ・モレッティ

101分/G/イタリア・フランス合作
原題または英題:Caro Diario
配給:チャイルド・フィルム

自分自身を主人公にした自伝的な映画です。まるで日記を読むような形で三つの章に分かれており、第1章では監督がベスパ(イタリアのスクーター)に乗ってローマの街を散策しながら、都市生活や映画について語ります。第2章ではシチリアの美しい島々を旅しながら現代社会の人間関係について考え、第3章では自身の病気治療の体験を率直に描いています。軽やかなユーモアと深い内省が混じり合った、個人的でありながら多くの人に共感される内容になっています。

自分中心的に見えながらも親しみやすく、鋭い観察力と温かさを併せ持つ作品になっています。映画というより監督自身の心の散歩のような作品でもあります。モレッティ監督の作家性を世界に強く印象づけた重要な作品として位置づけられています。

ただし、明確なストーリーを追っていったらダメですよ。

モレッティ監督独特の語り方と、映像エッセイとしての自由な表現が魅力的です。街を観察しながらの皮肉を込めた独り言、島巡りの旅の軽やかな映像、病気体験をユーモラスに語る誠実な態度が、観客を不思議と心地よい親近感に誘います。

日常のちょっとした出来事を見つめ直すことで、自分自身や社会の本当の姿に気づけます!

何気ない毎日をユーモラスに描きながら、生きることそのものの豊かさを思い出させてくれる作品です。

恋する惑星

画像引用元:映画.com

(NO.0920)

監督:ウォン・カーウァイ

100分/G/香港
原題または英題:重慶森林 Chungking Express
配給:アンプラグド

都市の孤独と恋愛を描いたスタイリッシュな映画です。物語は二つの部分に分かれており、第一部では失恋したばかりの刑事が、謎めいた金髪の女性と偶然出会い、すれ違いながらも心を通わせる短い時間を描きます。第二部では、別の刑事と、彼に密かに恋心を抱くファストフード店の店員フェイとの奇妙で温かい交流が展開されます。香港の忙しい街を舞台に、日常の中に隠れた小さな奇跡のような恋愛関係を映し出した作品です。

1990年代を代表するアジア映画の傑作でもあります。都会の孤独感をポップで鮮やかな映像と音楽で描いた素晴らしい作品です。ウォン・カーウァイ監督独特の映像美と、クリストファー・ドイル撮影監督によるスローモーションやブレを効かせた映像技法、そしてフェイ・ウォンが歌う音楽が、この作品を他にはない独特なものにしています。

活気あふれる香港の街を舞台に描かれる「一瞬の出会いの美しさ」と「小さな愛の始まり」が印象的です。偶然のタイミングやちょっとした出来事が人生を変える瞬間を鮮やかに切り取り、観客に都市生活のリアルさと詩的な美しさを同時に感じさせます。また、ポップカルチャーと実験的な映画手法が融合したスタイルは、その後のアジア映画に大きな影響を与えました。

恋愛は特別で大げさなものではなく、日常のささやかな偶然や心の小さな変化から始まります。孤独感を抱えながらも、誰かとつながろうとする人間の切ない気持ちを軽やかに描いた都会的なラブストーリーです。ぜひ堪能してください!

キングダム

画像引用元:映画.com

(NO.0921)

監督:ラース・フォン・トリアー

283分/デンマーク
原題または英題:The Kingdom
配給:シンカ

テレビシリーズで、後に映画版としても公開された作品です。舞台は「キングダム病院」と呼ばれる巨大な医療施設で、最新の医療技術が導入された近代的な病院です。しかし、この病院では奇妙な心霊現象や不可解な怪奇事件が次々と発生します。入院患者や医師、看護師たちが巻き込まれる超自然的な出来事により、科学と合理性の象徴である病院が次第に不気味で恐ろしい場所へと変貌していきます。ホラーの恐怖とブラックユーモアが巧妙に組み合わされた独特な作品です。

ホラー・テレビドラマの傑作です。医療ドラマとホラーの境界を破った革新的な作品でもあり、不条理と恐怖をブラックコメディで包み込む独特なスタイルがあります。

その影響力の大きさは、スティーヴン・キングがアメリカでリメイク版『キングダム・ホスピタル』を制作したことからも分かります。奇抜な内容や未解決の謎については賛否両論もありましたが、後のホラー作品群に大きな影響を与えました。

手持ちカメラによる粗い映像スタイルと、不気味さと笑いが交錯する独特なトーンが印象的です。病院の薄暗い廊下に漂う不穏な雰囲気、患者の視点で語られる恐怖体験、そして時として突き放すような風刺的なユーモアが、他にはない独自の世界観を作り上げています。

科学技術がいくら進歩しても、人間は不安や恐れから完全に解放されることはないことを暗に伝えようとしています。医療現場と怪奇現象を通して、人間存在の不可解で複雑な側面を浮き彫りにした、深く考えさせられる不条理ホラーの名作です。

Lamerica

画像引用元:Rotten Tomatoes

(NO.0922)

監督:ジャンニ・アメリオ

116分/イタリア
原題または英題:Lamerica
日本公開情報なし

舞台は共産主義体制が崩壊した直後の混乱期にあるアルバニアで、2人のイタリア人詐欺師がお金儲けのために現地にやってきます。彼らは偽の会社を作ってアルバニアの人々を利用しようと計画しますが、思うように事は進みません。現地の貧困や社会の混乱に直面する中で、主人公の一人が記憶を失った老人と出会い、次第に自分自身のルーツやイタリアの歴史と向き合うことになります。移民問題や国境を越えた人間の尊厳をテーマにした重厚な作品です。

批評家たちは「ヨーロッパの国境問題と歴史を背景にした普遍的な物語」「移民問題を寓話的でありながら人間的に描いた素晴らしい作品」と絶賛しました。ヴェネツィア国際映画祭では審査員特別賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を受けました。

豊かなイタリアと貧しいアルバニアの対比から生まれる社会的な緊張感が印象的です。西欧から見れば「発展途上国」とされたアルバニアの人々の生活がリアルに描かれ、同時にイタリア人自身の戦後の歴史や移民としての記憶が重ね合わされています。ロードムービーのような展開の中で映し出される風景や人々の姿が、大きな歴史と個人の物語を結びつけています。

過酷な現実ですが、人間は国境を越えても、自分の過去や歴史から逃れることはできません。

移民や経済格差といった現代にも通じる重要な問題を深く掘り下げ、人間の尊厳やアイデンティティについて考えさせてくれます。

ただし、日本ではこの作品観ることできません。字幕なしで探すなら可能です。

この映画もまた『死ぬまでに観たい映画1001本リスト』に掲載がなければ、日本人は誰も知らなかった作品でもあります。果たして何人がこの作品の記事を読んもらえるのか?知る由もありません(苦笑)。

まとめ

この記事1990年代前半のイメージで、動物たちが楽しそうに映画を鑑賞しているという画像です。

この記事では、『死ぬまでに観たい映画1001本』のうち、1990年~1994年までの、90年代前半作品の概要をお伝えしました。

かんとくさん

人生はチョコの箱だって聞いたけど僕のはバニラ味だったよ

あおい

何を食べたんですか?

『死ぬまでに観たい映画1001本』の完全リストはこちらです。

1980年代の記事はこちら

1990年代後半の記事はこちら

2000年代の概要記事はこちら

2010年代はこちら

2020年代(最新)はこちら

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この記事を書いた人

映画は人生の羅針盤を使うための大きなツールの一つです。
いい映画を紹介するというだけではなく、人生の考え方や人間関係などの悩みなどでお役に立てればと思っています。
映画はあなたの人生に必ず役に立てる時がありますので、いっしょに解決していきましょう。

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